16:00 〜 16:15
[SCG46-08] H2O-NaCl流体の電気伝導度に対する溶存シリカの影響
★招待講演
キーワード:電気伝導度、NaCl水流体、溶存シリカ、分子動力学計算
流体は地殻の性質やダイナミクスに大きな影響を与えるため、地殻中での存在形態を知ることが重要である。流体の電気伝導度は一般に岩石よりも高く、電磁気観測で直接計測することができるため、地殻中での流体の存在量・分布・組成を見積もるための有用な物性値である。高電気伝導度を観測し、その値を説明する流体を明らかとするためには、地殻中の高温高圧条件での流体がどのような電気伝導度を示すかを知る必要がある。
これまで下部地殻に相当する高温高圧条件でのH2O-NaCl流体の電気伝導度は分子動力学計算と実験で明らかとされている(Sakuma and Ichiki, 2016; Sinmyo and Keppler, 2017)。しかし、現実の下部地殻では岩石の溶解による流体の組成変化が考えられ、単純にH2O-NaCl流体の電気伝導度データから流体の存在量・分布・組成を議論することが難しいかもしれない。例えば実験で測定された石英岩中のH2O-NaCl流体の電気伝導度(Shimojuku et al., 2014)は、溶液のみから見積もられた電気伝導度よりも低い。これはSiO2-NaCl錯体の形成によると考えられているが(Newton and Manning, 2016)、一般に中性と考えられている溶存シリカがNaやClイオンによる伝導度に与える影響については未解明である。
本研究では、流体中の溶存シリカがどのように流体の電気伝導度に影響するかを知ることを目的とする。下部地殻の条件として800 K、1 GPaを想定し、H2O-NaCl流体にSiO2が溶存した場合の電気伝導度を分子動力学計算により算出した。溶存シリカの存在形態・濃度はManning (2018)の見積を参考とした。SiO2モノマー、ダイマーのポテンシャルモデルとしては、Yokoyama and Sakuma (2018)を元にパラメータを調整したモデルを採用した。電気伝導度はNa+とCl−の移動による電流の自己相関関数から計算した。
結果としてSi(OH)4モノマーの存在により、ややH2O-NaCl流体の電気伝導度の低下がみられるが、石英岩中のH2O-NaCl流体の実験結果ほどに顕著な低下はみられない。これはSi(OH)4モノマーが電気的に中性であり、NaとClイオンとの相互作用が弱いことに起因するかもしれない。発表ではSi2O(OH)6ダイマーについての計算結果についても示し、溶存シリカがH2O-NaCl流体の電気伝導度に与える影響を議論する。
参考文献: Manning, C.E. (2018) Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 46, 67-97.; Newton, R.C. and C.E. Manning (2016) Geofluids, 16, 342-348.; Sakuma, H. and M. Ichiki (2016) J. Geophys. Res. Solid Earth, 121, 577-594.; Shimojuku, A., T. Yoshino, D. Yamazaki (2014) Phys. Earth Planet. Int., 198, 1-8.; Sinmyo, R. and H. Keppler (2017) Contrib. Mineral. Petrol., 172, 4; Yokoyama, T. and H. Sakuma (2018) Geochim. Cosmochim. Acta, 224, 301-312.
これまで下部地殻に相当する高温高圧条件でのH2O-NaCl流体の電気伝導度は分子動力学計算と実験で明らかとされている(Sakuma and Ichiki, 2016; Sinmyo and Keppler, 2017)。しかし、現実の下部地殻では岩石の溶解による流体の組成変化が考えられ、単純にH2O-NaCl流体の電気伝導度データから流体の存在量・分布・組成を議論することが難しいかもしれない。例えば実験で測定された石英岩中のH2O-NaCl流体の電気伝導度(Shimojuku et al., 2014)は、溶液のみから見積もられた電気伝導度よりも低い。これはSiO2-NaCl錯体の形成によると考えられているが(Newton and Manning, 2016)、一般に中性と考えられている溶存シリカがNaやClイオンによる伝導度に与える影響については未解明である。
本研究では、流体中の溶存シリカがどのように流体の電気伝導度に影響するかを知ることを目的とする。下部地殻の条件として800 K、1 GPaを想定し、H2O-NaCl流体にSiO2が溶存した場合の電気伝導度を分子動力学計算により算出した。溶存シリカの存在形態・濃度はManning (2018)の見積を参考とした。SiO2モノマー、ダイマーのポテンシャルモデルとしては、Yokoyama and Sakuma (2018)を元にパラメータを調整したモデルを採用した。電気伝導度はNa+とCl−の移動による電流の自己相関関数から計算した。
結果としてSi(OH)4モノマーの存在により、ややH2O-NaCl流体の電気伝導度の低下がみられるが、石英岩中のH2O-NaCl流体の実験結果ほどに顕著な低下はみられない。これはSi(OH)4モノマーが電気的に中性であり、NaとClイオンとの相互作用が弱いことに起因するかもしれない。発表ではSi2O(OH)6ダイマーについての計算結果についても示し、溶存シリカがH2O-NaCl流体の電気伝導度に与える影響を議論する。
参考文献: Manning, C.E. (2018) Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 46, 67-97.; Newton, R.C. and C.E. Manning (2016) Geofluids, 16, 342-348.; Sakuma, H. and M. Ichiki (2016) J. Geophys. Res. Solid Earth, 121, 577-594.; Shimojuku, A., T. Yoshino, D. Yamazaki (2014) Phys. Earth Planet. Int., 198, 1-8.; Sinmyo, R. and H. Keppler (2017) Contrib. Mineral. Petrol., 172, 4; Yokoyama, T. and H. Sakuma (2018) Geochim. Cosmochim. Acta, 224, 301-312.