17:15 〜 18:45
[SCG47-P04] 延岡衝上断層周辺に分布する石英脈流体包有物の水の水素・酸素同位体分析による地震性分岐断層深部の水の起源と挙動の解明
キーワード:地震発生帯、石英脈、流体包有物、水素・酸素同位体比、流体移動
南海トラフをはじめとする,プレート境界の断層運動によって発生する巨大地震の発生メカニズムの解明は地震災害リスクを検討する上で重要な課題となっている.水と地震は密接に関連することが指摘されており,南海トラフではプレート境界地震発生帯に沿った高間隙水圧帯が観測されている(Tsuji et al., 2014).高間隙水圧の原因を明らかにするためには,断層周辺の水の起源と移動経路を推定することが一つの鍵である.水そのものの素性を化学的な手法により明らかにすることが有効であるが,プレート境界での地震発生帯は科学掘削では現在到達できていない深度にあたるため,地震発生帯での水の化学的な情報を得るには別のアプローチが必要となる.そこで,本研究では宮崎県延岡市の延岡衝上断層周辺に分布する石英脈中に存在する流体包有物に着目した.延岡衝上断層は南海トラフの地震性分岐断層深部の構造に類似しており(Kondo et al., 2005),断層周辺に形成された石英脈中の流体包有物は高間隙水圧の原因となった水を閉じ込めている可能性がある.また,近年の分析技術の発達によりμLレベルの水で水素・酸素同位体比(δD-H2O・δ18O-H2O)を分析できるようになった.本研究は,最新の分析技術を用いて延岡衝上断層の石英脈流体包有物中の水のδD-H2O・δ18O-H2O,および石英の酸素同位体比(δ18O-qz)を分析し,断層周辺の水の起源と移動経路を考察した.
流体包有物分析のための試料は断層の上盤と下盤に分布する引っ張り亀裂を充填した石英脈(Otsubo et al., 2016)から採取した.流体包有物中の水の水素・酸素同位体比はδD-H2O:-52.4~-98.0‰,δ18O-H2O:+6.0~+29.7‰であり,海水よりもδD-H2Oは小さく,δ18O-H2Oは大きい傾向を示した.上盤・下盤試料のδD-H2O・δ18O-H2Oとこれまでに報告されている水・岩石鉱物に含まれる水の同位体比を比較したところ,水の起源はスラブ・マントル由来の水であることが示唆された.これは,高温高圧下を経験した水がプレート境界層に沿って,分岐断層帯まで移動し,地震発生によって形成された引っ張り亀裂に石英が沈殿して,そこに流体包有物としてトラップされた可能性がある.
断層下盤の石英と水の酸素同位体平衡温度から見積もった温度は,178~224℃であった.この温度はビトリナイト反射率によって求められた下盤堆積物の経験温度よりも低い.また,先行研究により報告されている流体包有物の均質化温度(流体の捕捉温度:140~250℃)と一致している.このような脈は十分に冷却された流体から形成されたと考えられている(Kondo et al., 2005).
上盤の石英と水の酸素同位体分別から見積もった平衡温度は,693℃と769℃である.また,他の1試料からは平衡温度を出すことができないデータが得られた.仮に600℃以上の流体が移流してきた場合,石英脈周辺の岩石に局所的な熱変成が起こるはずであるが,そのような報告はされていない.したがって600℃以上という温度は一般的に高すぎる温度であり,このことは流体包有物の水と石英は同位体非平衡であると考えられる.平衡温度が出せなかった試料は,δ18O- H2Oが石英のδ18O- qzよりも大きく,通常の水から石英が沈殿する場合(δ18O-qz>δ18O-H2O)とは逆の傾向を示した.これらの結果から,上盤試料の石英と水の酸素は同位体非平衡であると考えられる.また,岩石薄片観察の結果から,同位体非平衡の原因として,石英脈形成後の二次的な流体の混入が示唆された.上盤試料の石英結晶には多数の亀裂が生じており,同位体非平衡の値を示した流体包有物中の水は石英脈の形成後に亀裂を通じて二次的に混入した可能性がある.
流体包有物分析のための試料は断層の上盤と下盤に分布する引っ張り亀裂を充填した石英脈(Otsubo et al., 2016)から採取した.流体包有物中の水の水素・酸素同位体比はδD-H2O:-52.4~-98.0‰,δ18O-H2O:+6.0~+29.7‰であり,海水よりもδD-H2Oは小さく,δ18O-H2Oは大きい傾向を示した.上盤・下盤試料のδD-H2O・δ18O-H2Oとこれまでに報告されている水・岩石鉱物に含まれる水の同位体比を比較したところ,水の起源はスラブ・マントル由来の水であることが示唆された.これは,高温高圧下を経験した水がプレート境界層に沿って,分岐断層帯まで移動し,地震発生によって形成された引っ張り亀裂に石英が沈殿して,そこに流体包有物としてトラップされた可能性がある.
断層下盤の石英と水の酸素同位体平衡温度から見積もった温度は,178~224℃であった.この温度はビトリナイト反射率によって求められた下盤堆積物の経験温度よりも低い.また,先行研究により報告されている流体包有物の均質化温度(流体の捕捉温度:140~250℃)と一致している.このような脈は十分に冷却された流体から形成されたと考えられている(Kondo et al., 2005).
上盤の石英と水の酸素同位体分別から見積もった平衡温度は,693℃と769℃である.また,他の1試料からは平衡温度を出すことができないデータが得られた.仮に600℃以上の流体が移流してきた場合,石英脈周辺の岩石に局所的な熱変成が起こるはずであるが,そのような報告はされていない.したがって600℃以上という温度は一般的に高すぎる温度であり,このことは流体包有物の水と石英は同位体非平衡であると考えられる.平衡温度が出せなかった試料は,δ18O- H2Oが石英のδ18O- qzよりも大きく,通常の水から石英が沈殿する場合(δ18O-qz>δ18O-H2O)とは逆の傾向を示した.これらの結果から,上盤試料の石英と水の酸素は同位体非平衡であると考えられる.また,岩石薄片観察の結果から,同位体非平衡の原因として,石英脈形成後の二次的な流体の混入が示唆された.上盤試料の石英結晶には多数の亀裂が生じており,同位体非平衡の値を示した流体包有物中の水は石英脈の形成後に亀裂を通じて二次的に混入した可能性がある.