日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

17:15 〜 18:45

[SCG48-P04] GNSS音響観測位における不確定性を考慮した東北沖における上下変動場評価

*富田 史章1木戸 元之1飯沼 卓史2太田 雄策3日野 亮太3 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.海洋研究開発機構、3.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:GNSS音響観測、東北沖、上下変動、余効変動

GNSS音響観測は,海底に設置した海底局アレイの変位を計測する測地観測手法であり,一般に1回のキャンペーン観測による海底局アレイ変位の上下成分の測位精度は5–10 cm程度である(例えば,Sato et al., 2013). GNSS音響観測の上下成分の精度が低いことに加え,海底における地殻変動は一般に水平成分が卓越するため,GNSS音響観測の上下成分は活用されてこなかった.しかし,2011年東北沖地震といった巨大プレート間地震による地震時変位(e.g., Kido et al., 2011)に加え,その地震後にも余効変動による顕著な上下変動が計測される場合があり(e.g., Watanabe et al., 2021),その適切な推定が求められている.
上下変位の測位誤差の要因としては主に以下の要因が考えられる:①海上局の航跡に依存した幾何学的な推定精度の劣化,②海中音速構造の複雑性による音響測距におけるモデル誤差や,③海上局のトランスデューサ取り付け位置の不確定性による系統誤差,④キネマティックGNSS測位誤差.誤差要因①による推定誤差は,キャンペーン毎のインバージョンにおけるモデル分散共分散行列の対角成分に現れると考えられる.一方で誤差要因②–④は系統誤差として現れるため,その評価が難しい.本研究では,まず誤差要因②の影響を個別に評価する.次に,誤差要因③–④の影響を誤差要因①の定数倍で表現できるものとし,その定数の最適化を実施した.最後に,これらの誤差要因の影響を最大限踏まえた変位速度の不確定性を求め,東北沖での2011年東北沖地震後の上下変位速度場について議論する.
誤差要因②は,鉛直音速構造の初期モデルに依存する形で現れると考えた.GNSS音響測位では,理論音響走時の計算において鉛直音速構造の初期モデルを与えており,XBT等で実測した音速構造,あるいは実測データがない場合にJCOPE2M(Miyazawa et al., 2017; 2019)から作成した音速構造を用いている.ここでは,実音速構造を初期モデルとして与えた場合に実音速構造の時間変化がもたらす測位誤差,およびJCOPE2Mを初期モデルとして与えた場合に実音速構造との乖離がもたらす測位誤差を評価した.
2012年9月以降にGNSS音響観測点(G01–G25:東北沖・根室沖)で取得したXBT, XCTD, CTD観測による実鉛直海中音速データを用い,観測時間内(半日–1日)の実海中音速構造間の残差データ群と,実海中音速構造とJCOPE2Mによるモデル音速構造の残差データ群をそれぞれ得た.次に乱数を用いて各残差データ群に基づく海中音速構造の初期モデルを生成するアルゴリズムを考案し,このアルゴリズムを用いたモンテカルロ法により,海底局アレイ変位の上下成分の推定誤差を求めた.海底局アレイ変位の推定には,GNSS音響測位ソフトウェアSeaGap(Tomita & Kido, 2023)の水平成層構造におけるスタティック解析を実施した.結果として,海中音速構造の時間変化による推定誤差は~2 cmであり,JCOPE2Mを用いた場合の推定誤差は~6 cmであることが分かった.
次に,各キャンペーンの推定誤差が,誤差要因②と誤差要因①(モデル分散共分散行列の対角成分)の定数倍で表現できると仮定し,その推定誤差とキャンペーン間のアレイ変位の重み付き回帰直線周りのばらつきが一致するようにMCMC法で最適な倍数を推定した.その結果,G01–G20観測点についての最適値は,6.4倍と推定された.
誤差要因③は,海上局毎に固有の系統誤差であり,海上局の運用方法によっては上記の重み付き回帰直線周りのばらつきに現れない場合がある.そこで,誤差要因③の影響を最大限評価するため,モンテカルロ法で海上局毎に固有の系統誤差をランダムに与え,変位速度の推定誤差を見積もった.
重み付き直線回帰によって得られた東北沖での2012年9月以降の上下変位速度場は,日本海溝近傍での隆起傾向と海溝から離れた観測点での沈降傾向を示した.この傾向は固着の影響を考慮した粘弾性緩和モデル(Wang et al., 2018; Luo et al., 2021)と整合的であるが,モンテカルロ法で評価された不確定性を超えて有意な上下変位速度を示した観測点は3点(G01, G04, G14)に限られた.本発表では,不確定性を踏まえた東北沖での上下変位速度場についてより詳しく議論したい.