日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG49] 固体地球科学と材料科学の融合が切り拓く新展開

2024年5月29日(水) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:河合 研志(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、土屋 旬(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、大村 訓史(広島工業大学)、辻野 典秀(公益財団法人 高輝度光科学研究センター)、座長:河合 研志(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、大村 訓史(広島工業大学)、辻野 典秀(公益財団法人 高輝度光科学研究センター)、土屋 旬(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

10:45 〜 11:00

[SCG49-01] 材料科学における機械学習ポテンシャル

★招待講演

*小林 亮1 (1.名古屋工業大学)

キーワード:機械学習ポテンシャル、分子動力学、欠陥

物質・材料科学において原子構造・結晶構造の同定や,与えられた構造における電子・光学・磁気・熱・力学的物性を正確に予測することが重要な課題である.その中でも物質・材料の機械的性質を高精度に予測するためには,材料内の欠陥の構造やその動的挙動を精確に記述することが求められる.原子・分子の動的挙動の詳細を実験的手法のみで解析するのが困難なために,原子・分子スケールのダイナミクスを行う分子動力学(MD)シミュレーションが発展してきた.MDシミュレーションでは原子間の相互作用の記述が,シミュレーションの精度と妥当性を決定する重要な要素である.そのため,これまでに原子や結合様式の特徴を捉えた多くの原子間ポテンシャルが開発されてきた.しかしながら,それらの古典的なポテンシャルでは,多くの場合に量子力学的な状態変化を伴う化学反応を精度良く再現することが困難であった.そのような背景のもと,近年のAI・機械学習の発展に伴って機械学習型のポテンシャルが多く開発されてきた.初期の機械学習型ポテンシャル(Behler-Parrinello型)では,原子・分子の座標をSymmetry functionと呼ばれる,並進・回転に対する不変な記述子に変換してニューラル・ネットワーク(NN)に代入することで,並進・回転に対して不変なエネルギーを予測することに成功した.その後,多くの記述子と機械学習モデルが提案され,比較的少ない元素からなる材料の高精度なポテンシャル作成が成功を収めた.最近では,原子周辺環境をグラフで表現したり,並進・回転に対して同変な量を内部変数として保持したり,元素数の変化でモデルサイズが変化しない構造にしたりすることで,より高い精度,高い汎化性能,効率的な機械学習ポテンシャルが開発されている.また,膨大な第一原理計算データを用いて,ほぼすべての元素の組み合わせに対して利用可能な汎用機械学習ポテンシャルも開発されている.我々のグループでは,同変なGraph NNポテンシャルを転位芯のような複雑な原子構造に対して機械学習ポテンシャルを学習させる能動学習スキームや,Graph NNポテンシャルに大規模言語モデル(LLM)で用いられるattention機構を導入してより高精度なポテンシャルを構築する方法を開発した.
講演では,機械学習ポテンシャルのこれまでの発展といくつかの例に加えて,改善の可能性,地球科学分野における応用について議論する.