日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 機械学習による固体地球科学の牽引

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(北海道大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

17:15 〜 18:45

[SCG50-P07] スペクトラルクラスタリングを用いた微動検出観測点群のアソシエーション解析: S-netへの適用

*寒河江 皓大1加納 将行2内出 崇彦1 (1.産業技術総合研究所、2.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

キーワード:スペクトラルクラスタリング、微動、S-net、日本海溝

背景
スロー地震の一種である微動は, プレート沈み込み帯における巨大地震発生域の周辺で観測される (Obara & Kato, 2016). 微動は非地震性すべりに関連して発生すると考えられるため, 微動を網羅的に検出することは巨大地震発生域の周辺におけるすべり現象の理解に重要である.
微動の検出に広く使われているエンベロープ相関法 (e.g., Obara, 2002) は通常地震と微動を区別して検出するのが困難であるのに対し, 機械学習を用いた手法は卓越する周波数や継続時間という特徴量に基づきそれらを区別することができる. Sagae et al. (2023, SSJ) では, S-net の全観測点を学習に用いたスペクトログラムを入力とする CNN を構築し, S-net 全体で汎用的に使える通常地震・微動・ノイズ判別モデル (ETN-detector) を開発した. ただし, 単独観測点だけでは誤判別を完全に防ぐことはできず, 地域地震などの高周波成分に乏しい信号を微動として誤判別してしまう場合がある. そのため, 誤判別を減らすためには複数観測点で得られた結果に基づく検出の精査が必要である. そこで本研究では, スペクトラルクラスタリング (von Luxburg, 2007) に基づく微動を検出した観測点群のアソシエーション手法を新たに開発し, 抽出した観測点群の特徴を調べた.

手法
スペクトラルクラスタリングとはグラフベースのクラスタリング手法である. グラフとは頂点(ノード)と辺(エッジ)で構成されるデータ構造のことであり, データ間の関連性を調べるのに適している. グラフは隣接行列 A, 次数行列 D を用いて, ラプラシアン行列 L = D A という実対称行列で表現できる. ここで隣接行列 A は対称行列であり, その非対角成分 Aij はノード ij との間を結ぶエッジの重みで表される. ノード間にエッジが存在しない場合は Aij = 0 である. また次数行列 D は対角行列で, 対角成分 Dii がノード i と結ばれているエッジの重みの総和で表される. i 成分をノード i の特徴量 xi とする固有ベクトルを考えると, ラプラシアン行列 L の固有値は λ = Σi,jAij (xixj)2で表される. つまり, 固有値の値が小さいということは, エッジの重み Aij が大きいほど特徴量 xixj が類似することを意味する. スペクトラルクラスタリングではこの固有ベクトルに基づいてノードのクラスタリングを行う.

解析手順
本研究ではS-net観測点の位置をノードとして考え, あるノードからの距離がk番目に近いノードまででエッジを結ぶk近傍グラフ (k = 10) を構築した. ETN-detector では1分間の時間窓から作成した3成分スペクトログラムを入力として通常地震・微動・ノイズの確率をそれぞれ出力する. 観測点ごとの微動確率 pi を考慮したグラフを構成するため, グラフのエッジには2観測点の確率の積 pipj を重みとして与え, 隣接行列 A を作成した. そして, その A からラプラシアン行列 L を作成した.
最終的に, ラプラシアン行列 L を固有値分解し, 固有ベクトルを求めた. Gaussian mixture model (Bishop, 2006) を用いて, 最小固有値に対応する固有ベクトルに基づき観測点をクラスタに分割し, 観測点数が3点以上のものを抽出した.

結果・議論
微動カタログ (Nishikawa et al., 2023) にあるイベントについて観測点クラスタを抽出し, クラスタを構成する観測点群の特徴を調べた. 抽出したすべてのクラスタについて, 観測点群の重心からの距離の標準偏差を計算し, クラスタの空間的な広がりを評価した. 標準偏差の大きいクラスタ (≧ 100 km) に着目すると, クラスタを抽出した時間窓の中に地域地震の信号が含まれていることがわかった. さらに, 本手法を連続データに適用し, クラスタの標準偏差に基づく閾値を設定することで地域地震などの信号を効率的に除去できることを確認した.
スペクトルクラスタリングでは, 2番目に小さい固有値に対応する固有ベクトルに着目することで観測点クラスタを分割できる. 第2固有ベクトルまでをクラスタリングに用いるということは, 重みの小さいエッジをグラフからカットすることを意味する. この性質を利用することで, 微動が隣接して同時発生している場合でも, それらの微動に対応するクラスタを分割できる可能性がある. 本発表では, 分割したクラスタの特徴とそれが震源位置に与える影響について議論する.

謝辞:本研究はJSPS科研費 JP21H05205 の助成を受けたものです. 記して感謝申し上げます.