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[SCG50-P10] R2AU-Netの転移学習とハイパーパラーメータの検討による高精度な火山性地震の位相検出モデルの構築
キーワード:位相検出、火山性地震、群発地震、機械学習、深層学習、転移学習
火山地帯では度々火山活動に関連した活発な群発地震が発生し、それらの迅速な検出、検測は火山防災において非常に重要である。しかし現在、これらのプロセスは最終的には人間の判断に委ねられ、膨大な時間とコス トを要し、リアルタイムでの詳細な検証は不可能である。この問題を解決するため、近年多くの地震観測で機械学習モデルが開発されその有用性が確かめられており、すでに膨大な訓練データを用いた学習済みモデルがいくつか公開されている。それらはそのまま適用して問題無い事例もあるが、学習データの地域依存性も報告され ている (Münchmeyer et al., 2022) 。特に本研究のターゲットは火山地帯という特殊な地域で発生する地震であるので、主に地殻内地震の波形で学習した既存の学習済みモデルは適用が難しい可能性が指摘されている (Kim et al., 2023)。本研究では箱根火山で発生する地震をより精度良く検測できるモデルの構築を目指し、 U-Net の構造に再帰残差ユニットと注意機構の両方を追加した R2AU-Net を用いた学習モデルを構築 し、箱根火山で発生した 1999 年から 2020 年までの約 30,000 イベント (波形数約 170,000) の地震波形に対して性能評価を行った。結果として箱根火山の地震データで学習したモデルの P 波検測の Precision, Recall はそれぞれは 95.7%, 87.6% となり、既存の PhaseNet (Zhu and Beroza, 2018) のアーキテクチャを使用し本研究と同じ箱根の観測データを用いて学習したモデル (Kim et al., 2023) の検出性能 (P 波 Precision=90.9%, Recall=86.5%) と比較して大幅に向上した。他の火山でも多くの訓練データが蓄積されている場合には同様にその火山に最も適したモデルが作成可能であると考えられるが、多くの火山では箱根のようにデータの蓄積が十分では無い。そこで、そのような火山においても精度の良い phase pick model を作成する可能性を検証するために、上記の箱根火山での学習済みモデル (model HKN) を用いて、イベント数が 2,300 程度とデータ数が箱根の 13 分 の 1 である、霧島火山の地震データを用いた転移学習モデルを構築した (model KSM) 。学習では model HKN の前半のエンコーダ部分の重みを固定し、後半のデコーダ部分の重みを初期化することで転移学習を可能にしている。このモデルを学習に用いていない霧島の観測データに適用した結果、 model KSM では model HKN をそのまま適用した場合と比較して地震波検測の精度が有意に向上し、訓練データが少ない火山においても転移学習による phase pick model の構築が可能であるということが示された。また一般的に、地震動の検出では防災の観点から Precision のスコアが高いモデルより Recall のスコアが高いモデルが重要視される場面も多いと考えられる。構築した両モデルについてパラメータチューニングを行なったところ、モデルの学習率を高めたパラメータ条件において地震波検測の Precision のスコアが若干下がるものの Recall が大幅に向上するモデルが構築された。この結果として、火山防災により適したモデルである Recall のスコアが高いモデルの構築を検討できる可能性が示された。