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[SCG51-07] 白金族鉱物のPt–OsおよびRe–Os同位体系に基づく超苦鉄質岩年代学
キーワード:LA-ICP-MS、白金族元素、Os同位体系、黒瀬川帯
マントルおよび下部地殻内部に秘められた地球科学現象を解明するには現在地表に露出している超苦鉄質岩体の形成史を明らかにすることが重要である。しかしながら、その解明の観点で必要な基礎的な年代データは質・量ともに不十分である。これは主として超苦鉄質岩は放射性元素に乏しいことに起因する。ほとんどの放射性元素は親石性かつ液相濃集性を有し、超苦鉄質岩中のそれらの元素濃度は低い。したがって、超苦鉄質岩に対する放射性同位体年代測定の実施は困難であり、年代測定には僅かな同位体比の偏差を区別する高精度同位体比分析法が必要となる。そしてたとえ超苦鉄質岩体から年代情報を抽出することができたとしても、変質作用および変成作用に伴う地殻物質の混染により二次的な放射性元素の付加が起こり、すでに初生的な年代情報が失われている恐れがある。
そこで超苦鉄質岩体から初生的な年代情報を取得するため、本研究では地殻物質の混染による同位体系のリセットを免れ得る親鉄性を有する元素に着目し、190Pt–186Os系および187Re–187Os系を用いた年代測定法の開発を行った。これらの二つの壊変系を用いた年代測定法は超苦鉄質岩に含まれる白金族鉱物(イソ鉄白金鉱、トゥラミーン鉱など)に対して適用することができる。[1] これらの白金族鉱物はOsと比較してPtに富み、Reに乏しい。そこで、190Pt–186Os系に基づき白金族鉱物の形成年代、187Re–187Os系に基づき初生187Os/188Osの高精度決定を通じた地球化学的起源を制約することができる。
白金族鉱物から信頼できる年代情報を得るには、形成過程を反映している鉱物内部組織の観察に基づく局所Os同位体比分析の実施が重要である。そして本研究では、レーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)を用いた局所Os同位体比分析法を開発した。用いたLA装置は紫外フェムト秒レーザーを搭載しており、従来の局所Os同位体比分析法で用いられてきたナノ秒LA装置[2]と比較して金属効率を高効率に掘削することができる。[3] さらに高精度同位体比測定のため多重検出方式のICP-MS(MC-ICP-MS)を採用し、2基のデイリー検出器と3基の二次電子増倍管検出器を用いてOsおよびW同位体(188Os, 187Os+187Re, 186Os+186W, 184W, 182W)の同時検出を実施した。高精度Os同位体比に加えて鉱物形成過程の情報を有する微量元素組成を同時に取得するため、LAにより生じた微粒子を二手に分け、一方をMC-ICP-MS、もう一方を微量元素測定用の四重極型ICP-MSへと導入した(レーザーアブレーション分流法; LASS)。
本研究で開発したLASS-ICP-MSに基づく局所Os同位体比分析法を黒瀬川帯に産する白金族鉱物の年代測定に応用した。当該地域において白金族鉱物は砕屑性鉱物として見出され、その給源は輝岩体であると考えられる。[4] そしてこの白金族鉱物が有する年代情報は黒瀬川帯の形成史、すなわち日本列島史における最初期の弧–海溝系テクトニクスを解明する上で極めて重要である。実際に年代分析を実施する前にLA-ICP-MSを用いて微量元素イメージング分析を行ったところ、白金族鉱物の中心部はイソ鉄白金鉱、外縁部はトゥラミーン鉱から構成されることが明らかになった。トゥラミーン鉱は銅を主成分として含有し、ヒ素やアンチモンといった他の親銅元素も高濃度に含有している。そして、この鉱物粒子内部のコア–リム組織を区別してOs同位体比分析を実施した。本発表では白金族鉱物の190Pt–186Os系および187Re–187Os系に基づきその形成時期および地球化学的な起源について議論する。
[1] Luguet, A. et al., 2019, Geochem. Perspect. [2] Russo, R.E. et al., 2002, JAAS. [3] Hirata, T. et al., 1998, Chem. Geol. [4] Nishio-Hamane, D. et al., 2019, JMPS.
そこで超苦鉄質岩体から初生的な年代情報を取得するため、本研究では地殻物質の混染による同位体系のリセットを免れ得る親鉄性を有する元素に着目し、190Pt–186Os系および187Re–187Os系を用いた年代測定法の開発を行った。これらの二つの壊変系を用いた年代測定法は超苦鉄質岩に含まれる白金族鉱物(イソ鉄白金鉱、トゥラミーン鉱など)に対して適用することができる。[1] これらの白金族鉱物はOsと比較してPtに富み、Reに乏しい。そこで、190Pt–186Os系に基づき白金族鉱物の形成年代、187Re–187Os系に基づき初生187Os/188Osの高精度決定を通じた地球化学的起源を制約することができる。
白金族鉱物から信頼できる年代情報を得るには、形成過程を反映している鉱物内部組織の観察に基づく局所Os同位体比分析の実施が重要である。そして本研究では、レーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)を用いた局所Os同位体比分析法を開発した。用いたLA装置は紫外フェムト秒レーザーを搭載しており、従来の局所Os同位体比分析法で用いられてきたナノ秒LA装置[2]と比較して金属効率を高効率に掘削することができる。[3] さらに高精度同位体比測定のため多重検出方式のICP-MS(MC-ICP-MS)を採用し、2基のデイリー検出器と3基の二次電子増倍管検出器を用いてOsおよびW同位体(188Os, 187Os+187Re, 186Os+186W, 184W, 182W)の同時検出を実施した。高精度Os同位体比に加えて鉱物形成過程の情報を有する微量元素組成を同時に取得するため、LAにより生じた微粒子を二手に分け、一方をMC-ICP-MS、もう一方を微量元素測定用の四重極型ICP-MSへと導入した(レーザーアブレーション分流法; LASS)。
本研究で開発したLASS-ICP-MSに基づく局所Os同位体比分析法を黒瀬川帯に産する白金族鉱物の年代測定に応用した。当該地域において白金族鉱物は砕屑性鉱物として見出され、その給源は輝岩体であると考えられる。[4] そしてこの白金族鉱物が有する年代情報は黒瀬川帯の形成史、すなわち日本列島史における最初期の弧–海溝系テクトニクスを解明する上で極めて重要である。実際に年代分析を実施する前にLA-ICP-MSを用いて微量元素イメージング分析を行ったところ、白金族鉱物の中心部はイソ鉄白金鉱、外縁部はトゥラミーン鉱から構成されることが明らかになった。トゥラミーン鉱は銅を主成分として含有し、ヒ素やアンチモンといった他の親銅元素も高濃度に含有している。そして、この鉱物粒子内部のコア–リム組織を区別してOs同位体比分析を実施した。本発表では白金族鉱物の190Pt–186Os系および187Re–187Os系に基づきその形成時期および地球化学的な起源について議論する。
[1] Luguet, A. et al., 2019, Geochem. Perspect. [2] Russo, R.E. et al., 2002, JAAS. [3] Hirata, T. et al., 1998, Chem. Geol. [4] Nishio-Hamane, D. et al., 2019, JMPS.