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[SCG51-08] 小さな岩体に大きな不均質—三波川変成帯蛇紋岩体のジルコニウム・トリウム鉱物のウラン鉛年代と元素イメージングから
キーワード:誘導結合プラズマ質量分析、レーザーアブレーション、ジルコン、バデレアイト、燐酸塩鉱物
レーザー焼灼誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICPMS)による各種アクセサリー鉱物、特にジルコンのウラン鉛年代や微量元素組成の分析はここ数十年の地球科学の進歩に多大な貢献をしてきた。発展目覚ましい分析技術を活用して地球科学研究を推進するために、新たに利用可能なアクセサリー鉱物や同位体壊変系列や地球化学的指標の開拓が求められている。このような中、我々は埼玉県に露出する三波川変成帯の樋口蛇紋岩体(HSB)において、長径2mmに及ぶバデレアイトの繊維状結晶の集合体を発見した。HSBは15 m× 8 mの蛇紋岩体で、変形によりブロック-イン-マトリックス構造を持ち、周囲は泥質片岩に囲まれ、境界部分には厚さ数十cmの緑泥石岩の層がある。バデレアイト集合体はHSBの中の約50cm程度の1つのブロックのみから見出され、他に約50 kgほどの蛇紋岩試料を観察したが見つからなかった。バデレアイト集合体の縁辺には多孔質のジルコン結晶集合体が20μm以下の幅で生じている。LA-ICPMSによるU-Pb年代測定の結果、これらバデレアイト、ジルコンは共に約95 Maを示した。さらに、ウラン鉛年代の分析スポットおよび微量元素イメージングにより、バデレアイトとジルコンの一部に数十μm以下の高いTh/U比(>10)を持つ領域が局所的にあることがわかった。Th/U比とウラン鉛年代の間に相関関係は見られなかった。一方、HSBの縁辺の緑泥石岩には、ごく一部の領域にのみモナザイトやトール石などThに富む鉱物が見られる。モナザイトは単体での結晶粒子の他、燐灰石の縁辺を取り囲むように生じているものも見られた。一般的にはZrとThは強配位子場元素に分類され低温熱水活動では溶解や移動は起こらないとされる。反対に、本研究の成果、すなわちmmスケールのZrの偏在とμmスケールのThの偏在、は蛇紋岩に伴うアルカリ熱水活動では移動や沈殿が極めて局所的に起きたことを示す。LA-ICPMSによる分析は、このような熱水イベントの年代制約や化学的特徴を知るための重要なツールである。これを活用するには、岩体境界部の変質帯のように数mから数十mの範囲におけるミリ~サブミリメートルスケールのアクセサリー鉱物を効率的に見出すための技術が求められる。マイクロXRFによる大面積の岩石断面の高速元素イメージングは、この役割を担う可能性を持つ。