日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] ハイブリッド年代学 -多次元年代データ時代の到来-

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:仁木 創太(名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部)、伊藤 健吾(東京大学)、坂田 周平(東京大学地震研究所)、岩野 英樹(東京大学附属地殻化学実験施設)

17:15 〜 18:45

[SCG51-P03] 多重検出方式のICP質量分析法による第四紀ジルコンの局所238U–230Th年代分析

小杉 周平1、*仁木 創太1平田 岳史1 (1.東京大学理学系研究科地殻化学実験施設)

キーワード:ジルコン、LA-ICP-MS、放射非平衡、第四紀

火山噴火過程やマグマ活動を正確に評価するためには、 火山噴出物中の斑晶鉱物に対する年代測定が有用である。これまで様々な鉱物に対して、閉鎖温度の異なる多様な年代測定法が開発されてきたが、その中でもジルコンに対するU-Th-Pb年代系(閉鎖温度:900 ℃以上)とフィッション・トラック年代(閉鎖温度:200 ℃)を組み合わせることで、一つの粒子から異なる温度におけるマグマの時間情報を取得することが可能である。[1] 特に閉鎖温度の高いU-Th-Pb年代系は、マグマだまり内でのマグマの冷却固化に関する時間情報が取得できるので、先行研究で多く得られているような噴出年代とは異なる年代の取得が期待できる。しかし火山噴火の時間間隔は数十万年以下[2]といわれており、マグマだまり中のマグマが噴出するまでの個々の過程に対する時間情報を取得するためには、数十万年前よりも後に噴出した若い鉱物について、数万年より短い時間分解能で年代測定を行うことが必要である。そのような年代測定を行う上では、ジルコンに対する238U–230Th年代の適用が有効である。
これまでの研究では、レーザーアブレーションICP質量分析法を用いた数十万〜十万年前の若いジルコンに対する238U–230Th年代の取得が行われてきた。[3,4] しかしながら、これらの測定ではシングルコレクター型のICP-MSを用いており、同位体比の測定には一つの検出器を質量走査させる必要があるため、過渡信号への追跡性能が低く、取得する同位体比の精度および正確性が低下し得る。そこで本研究では、磁場型の質量分析計において複数の検出器を搭載したマルチコレクター型のICP-MSに注目し、この方法を用いた数十万~十万年前のジルコンに対する238U–230Th年代の取得を目指すことにした。鉱物中における230Th/238U は10−5 程度であるため、238U–230Th年代を取得する上では7桁以上のダイナミックレンジが求められる。その際には、複数の検出器を併用して測定を行う必要がある。本研究では、238Uや232Th のようにジルコン中で存在度の大きい同位体についてはファラデー検出器を使用し、230Thのように存在度の小さい同位体については二次電子増倍管を用いて検出を行った。
正確な年代値を取得する上では、存在度の小さい230Thに対する系統誤差を補正する必要がある。生じうる系統誤差としては、二つの要因が挙げられる。一つは232Th の信号からm/z 230へのテーリングであり、これについてはNIST SRM 610を用いてその程度を見積もった。もう一つは230Thに対する干渉イオン (i.e., Zr2O3+) の存在である。磁場型の質量分析計を用いた先行研究では、低質量分解能 (m/Δm=300) で230ThとZr2O3+を分離せずに信号を取得している。[6] 同時に取得したm/z 228の信号 (i.e., 90Zr90ZrO3+) からZr の同位体存在度をもとにm/z 230における干渉イオン (i.e., 91Zr91ZrO3+90Zr92ZrO3+) の寄与を推定し、それを差し引くことで230Thの存在量を計算している。しかし、この方法では干渉の寄与の見積もりに伴う誤差が発生し、計算された230Thの値の正確性に疑問が残る。そこで本研究では、高質量分解能 (m/Δm=1200) で230ThからZr2O3+を分離して検出した。これにより先行研究より正確な230Thの検出が可能である。
次に、それらの結果を踏まえて、標準ジルコンの230Th /238Uおよび第四紀ジルコンの238U–230Th年代の取得を行った。本発表ではその結果について報告する。

[1] Iwano H. et al., 2013, Island Arc. [2] White S. M. et al., 2006, Geophys. [3] Guillong M. et al., 2016, GGR. [4] Niki S. et al., 2022, GGR. [6] Guillong et al., 2015, J. Volcanol. Geotherm. Res.