日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、鹿児島 渉悟(富山大学)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:鹿児島 渉悟(富山大学)

14:45 〜 15:00

[SCG52-05] 地球深部探査船「ちきゅう」によるプチスポットパイプのライザーレス掘削で海洋マントル採取に挑もう

*石井 輝秋1平野 直人2秋澤 紀克3金子 誠4町田 嗣樹5 (1.静岡大学 防災総合センター、2.東北大学、3.東京大学、4.深田地質研究所、5.千葉工業大学)

キーワード:地球深部探査船「ちきゅう」、プチスポットパイプ、ライザーレス海洋マントル掘削、海洋科学掘削

本格的海洋科学掘削は海洋マントル採取を目的に,1961 年に米国のモホール計画として開始された.その後1968 年に米国の掘削船グローマー・チャレンジャー号,1985 年に米国の掘削船ジョイデス・レゾリューションへと引き継がれ,2005 年に地球深部探査船「ちきゅう」の運用が開始された.上記3 船を主とする海洋科学掘削は,地球科学・自然科学発展の上で大きな貢献を果たしてきた.マントル掘削の観点では,米国船によるライザーレス掘削で海底下約2km が最深である.2000m 級ライザーパイプを備えたD/V「ちきゅう」は,日本周辺海域での堆積岩のライザーおよびライザーレス海洋科学掘削により大きな成果を上げているが,現在のマントル掘削候補地3点はいずれも水深が約4000mであり,現在4000m 級ライザーパイプ入手の目途は立っていないため,その対応に苦慮している(石井他,2023).一方,ドリルパイプは約12000m の運用がほぼ達成された.そこでマントル掘削を目標として“D/V「ちきゅう」によるプチスポットパイプのライザーレス&ケーシングレス掘削で海洋マントル採取に挑む” ことを検討したい.
三陸沖に沈み込む太平洋プレート年代は130-135Maそして周辺の大型海山の年代は120-80Maである,同海域の詳細な海底地形調査により,超小型海山の分布が示され,山体からは新鮮な10Ma以下の若いアルカリ質火山岩(1.8-8.5Ma)が採取され,プチスポット火山と名付けられた(Hirano et al., 2006).
プチスポット火山はプレート直下(海底下約60 km)で発生したアセノスフェア由来のマグマが,プレート沈み込みに伴う応力場の変化によって,プレート内に生じた割れ目に沿って上昇し,モホ面(海底下約6 km)を通過,上昇し,深海底に発泡著しいシル・溶岩・火山角礫岩(比重約1.5)として噴出したものである(Hirano et al., 2006).
プチスポッ火山の中には,水深約5500mで超深海底のマール(Maar Crater:爆裂火口)状山様を呈し,キンバーライトパイプに類似する深部構造であるプチスポットパイプの存在を予測させる山体がある.プチスポットパイプ内部は,キンバーライトパイプ同様に,火山角礫岩で満たされていると予想される(石井他,2019).
火道であるプチスポットパイプ近傍では,マグマ上昇により,それまでに蓄積されていた広域応力が解消されると共に,マグマの貫入により補強された,堅牢な孔壁を獲得したと予測できる. その結果,火道はマントルに至る天然のケーシング(=孔壁)を有する,ほぼ垂直なトンネルを形成している可能性が考えられる.D/V「ちきゅう」の12000mドリルパイプによる,掘削が容易な火山角礫岩から成るプチスポットパイプ内のライザーレス&ケーシングレスマントル採取掘削が可能になると考えられる.そしてこの掘削に際しては,筆者が提案済みの上方掘削可能コアバレル(石井他,2023)のR/V「ちきゅう」仕様の開発が不可欠であろう.モホ面下のマントル採取を最優先とし,ひたすらモホ面を目指し掘削を行ない,モホ面より上位の試料採取は,検層データに基づき,後日横堀りや枝掘りで行うことが望ましいと思う.
日本近海のマントル掘削孔は,常設のオンライン観測点,そして自然災害時の防災・減災に寄与する観測基地として活躍が期待される.更に近年東北沖プチスポット火山類似の火山体が,世界各地の深海底から報告されつつある.東北沖プチスポットパイプ掘削で海洋マントル採取が比較的安価・短期で達成できれば,他海域のプチスポットパイプ掘削による,マントル採取が試みられるであろう.将来プチスポット掘削科学という新たな科学分野が開かれることを期待したい.
文献
Hirano, N., Kaneoka, I., Ishii, T., Ogawa, Y., Machida, S. and Suyehiro, K., et al., (2006): Volcanism in response to plate flexure. Science, 313, 1426–1428
石井輝秋・金子 誠・平野直人・町田嗣樹・他(2019):「新青丸」KS - 18- 9 航海, プチスポット火山ドレッジ研究速報と展望 ― 歴史的大発見:東北沖太平洋超深海底の爆裂火口(マール)―.深田地質研究所年報, 20,105 –128.
石井輝秋・金子 誠・平野直人・町田嗣樹・秋澤紀克(2023):プチスポットパイプのライザーレス掘削で海洋マントル採取に挑む― 地球深部探査船「ちきゅう」による新モホール計画 ―.深田地質研究所年報,24,119-138.