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[SCG54-09] 小笠原硫黄島翁浜沖2023年噴火の経緯と噴出物の特徴
キーワード：伊豆・小笠原・マリアナ弧、アルカリ系列マグマ、後カルデラ火山活動、水蒸気マグマ噴火、新島形成噴火
はじめに
小笠原硫黄島火山は活発な地殻変動・地熱活動・地震活動が続いているカルデラ火山である。近年では2011年以降、隆起変動と地震活動が活発な状態にあり、水蒸気噴火が頻発している。噴火地点はカルデラ内の再生ドームである元山を囲む正断層帯の付近に広く分散している。カルデラ南部の翁浜沖では2021年8月より噴火活動が開始され、2022年にはマグマの噴出が確認された(長井ほか、2022)。2023年では6月及び10月~12月に噴火が発生した。特に活発であった10月以降の活動について聞き取り調査、現地調査や機上観察から得られた噴火経緯と噴出物の岩石学的な特徴の概要について報告する。
翁浜沖10月~12月噴火の経緯
2023年10月21日からこれまで噴火が起きていた波食台の南端付近でコックステールジェットを噴出するスルツェイ式噴火が再開した。噴出に関連して孤立型の微動が頻発した。25日頃から噴煙の規模が大きくなり、漂流する軽石の量も増えた。30日には火口の北側に砂州が形成され、31日以降火口の周りに陸上火砕丘が成長した。11月3日頃が噴火の最盛期で、火砕サージを伴う爆発が頻発した。火砕サージの到達範囲は火口から約160 m、投出岩塊については130 mであった。大型の火山弾は赤熱しており、夜間は着地後もしばらく発光していた。上昇した火山灰噴煙から本島南部に少量の降灰があった。火砕丘は直径145 m、高さ25 mまで成長した。11月4日頃から一時的に乾陸上の噴火に移行したとみられ、11月9日にかけて南東側に小規模な溶岩流が流出するとともに、空振を伴うブルカノ式噴火様の小規模な爆発が頻発した。この間、溶岩の分布しない火砕丘の北東部と南西部では波食が進み、一方で主に再堆積物からなる砂州が北側と西側の2方向に成長した。数日の休止をおいて11月12日より火砕丘の西山腹でスルツェイ式噴火が再開した。その後火砕丘の再形成と崩壊を繰り返したのち、12月中旬に噴火は終了した。火砕丘は主に溶岩からなる長径20 m程の岩礁を残して消滅した。砂州は縮小しながら陸側に移動を続け、12月中旬頃に本島に接続した。12月31日～2024年1月4日まで噴火が再開したが、この活動で新たな陸地の生成はおこらなかった。
噴出物の特徴
本島に漂着した本質物は淡褐色~暗灰色の軽石ないしスコリアである。表面の急冷縁が欠落し、丸みを帯びているものが多い。大型の岩塊は最大で1.2 mの大きさがあり、全体に暗灰色でしばしば赤褐色に酸化している。複数の火砕物粒子が溶結した組織をもつ岩塊も見出されている。これらは陸上の火砕丘を構成していたものと考えられる。噴火地点に近い砂州では、溶岩流に由来するとみられる新鮮な灰色の溶岩片も打ち上げられていた。
岩石学的特徴
本質物の全岩化学組成はSiO2=61.2～61.3 wt%、Total Alkali(Na2O+K2O)= 10.6～10.8 wt%の範囲に集中しており、2022年の噴出物とほぼ同質の粗面岩である。斑晶や石基で鉱物組み合わせに大きな違いはなく、斜長石、単斜輝石、カンラン石、Fe-Ti酸化物、燐灰石からなる。またFe硫化物がFe-Ti酸化物内に包有物として認められた。石基微晶・微斑晶に乏しく、火山ガラスの化学組成も全岩組成に近い(SiO2=61.8～63.2 wt%)など、2022年噴火よりも噴出マグマの結晶度が低い傾向がある。
噴出量・噴出率
円錐台近似で噴出量を概算すると、陸上部分の体積は30万m3程度であった。海底部分については波食台の地形を貝塚ほか(1985)と同様と仮定し水深5 m、噴出物斜面の傾斜を波食台上の砂州と同程度の2°として見積もった場合は20万m3前後となった。一日程度の期間の平均噴出率は最盛期で1 m3/s程度であった。
まとめ
今回の噴火では小規模ながら浅海域におけるマグマ噴火の典型的な推移を経たものと考えられる。推定された噴出量は全体で50万 m3程度（VEI=1相当）と小さく、噴火活動に関連してデフレーションを示すような、通常と異なる地殻変動も認められていない。このため硫黄島の地下浅部に上昇していると考えられるマグマは、噴火で消費されることがほとんどなく蓄積が続いていると判断される。2022年噴火と比較して噴出率が大きかったとみられることから、マグマ上昇速度も大きくなっていたと考えられるので、マグマの脱ガスや結晶化が相対的に不十分となっていた可能性がある。
謝辞
資試料の収集及び現地調査に際して海上自衛隊海上幕僚監部及び硫黄島航空基地隊気象班、気象庁火山監視・警報センターの御協力を得た。機上観察に際しては朝日新聞社の御協力を得た。以上の方々に記して御礼申し上げる。
小笠原硫黄島火山は活発な地殻変動・地熱活動・地震活動が続いているカルデラ火山である。近年では2011年以降、隆起変動と地震活動が活発な状態にあり、水蒸気噴火が頻発している。噴火地点はカルデラ内の再生ドームである元山を囲む正断層帯の付近に広く分散している。カルデラ南部の翁浜沖では2021年8月より噴火活動が開始され、2022年にはマグマの噴出が確認された(長井ほか、2022)。2023年では6月及び10月~12月に噴火が発生した。特に活発であった10月以降の活動について聞き取り調査、現地調査や機上観察から得られた噴火経緯と噴出物の岩石学的な特徴の概要について報告する。
翁浜沖10月~12月噴火の経緯
2023年10月21日からこれまで噴火が起きていた波食台の南端付近でコックステールジェットを噴出するスルツェイ式噴火が再開した。噴出に関連して孤立型の微動が頻発した。25日頃から噴煙の規模が大きくなり、漂流する軽石の量も増えた。30日には火口の北側に砂州が形成され、31日以降火口の周りに陸上火砕丘が成長した。11月3日頃が噴火の最盛期で、火砕サージを伴う爆発が頻発した。火砕サージの到達範囲は火口から約160 m、投出岩塊については130 mであった。大型の火山弾は赤熱しており、夜間は着地後もしばらく発光していた。上昇した火山灰噴煙から本島南部に少量の降灰があった。火砕丘は直径145 m、高さ25 mまで成長した。11月4日頃から一時的に乾陸上の噴火に移行したとみられ、11月9日にかけて南東側に小規模な溶岩流が流出するとともに、空振を伴うブルカノ式噴火様の小規模な爆発が頻発した。この間、溶岩の分布しない火砕丘の北東部と南西部では波食が進み、一方で主に再堆積物からなる砂州が北側と西側の2方向に成長した。数日の休止をおいて11月12日より火砕丘の西山腹でスルツェイ式噴火が再開した。その後火砕丘の再形成と崩壊を繰り返したのち、12月中旬に噴火は終了した。火砕丘は主に溶岩からなる長径20 m程の岩礁を残して消滅した。砂州は縮小しながら陸側に移動を続け、12月中旬頃に本島に接続した。12月31日～2024年1月4日まで噴火が再開したが、この活動で新たな陸地の生成はおこらなかった。
噴出物の特徴
本島に漂着した本質物は淡褐色~暗灰色の軽石ないしスコリアである。表面の急冷縁が欠落し、丸みを帯びているものが多い。大型の岩塊は最大で1.2 mの大きさがあり、全体に暗灰色でしばしば赤褐色に酸化している。複数の火砕物粒子が溶結した組織をもつ岩塊も見出されている。これらは陸上の火砕丘を構成していたものと考えられる。噴火地点に近い砂州では、溶岩流に由来するとみられる新鮮な灰色の溶岩片も打ち上げられていた。
岩石学的特徴
本質物の全岩化学組成はSiO2=61.2～61.3 wt%、Total Alkali(Na2O+K2O)= 10.6～10.8 wt%の範囲に集中しており、2022年の噴出物とほぼ同質の粗面岩である。斑晶や石基で鉱物組み合わせに大きな違いはなく、斜長石、単斜輝石、カンラン石、Fe-Ti酸化物、燐灰石からなる。またFe硫化物がFe-Ti酸化物内に包有物として認められた。石基微晶・微斑晶に乏しく、火山ガラスの化学組成も全岩組成に近い(SiO2=61.8～63.2 wt%)など、2022年噴火よりも噴出マグマの結晶度が低い傾向がある。
噴出量・噴出率
円錐台近似で噴出量を概算すると、陸上部分の体積は30万m3程度であった。海底部分については波食台の地形を貝塚ほか(1985)と同様と仮定し水深5 m、噴出物斜面の傾斜を波食台上の砂州と同程度の2°として見積もった場合は20万m3前後となった。一日程度の期間の平均噴出率は最盛期で1 m3/s程度であった。
まとめ
今回の噴火では小規模ながら浅海域におけるマグマ噴火の典型的な推移を経たものと考えられる。推定された噴出量は全体で50万 m3程度（VEI=1相当）と小さく、噴火活動に関連してデフレーションを示すような、通常と異なる地殻変動も認められていない。このため硫黄島の地下浅部に上昇していると考えられるマグマは、噴火で消費されることがほとんどなく蓄積が続いていると判断される。2022年噴火と比較して噴出率が大きかったとみられることから、マグマ上昇速度も大きくなっていたと考えられるので、マグマの脱ガスや結晶化が相対的に不十分となっていた可能性がある。
謝辞
資試料の収集及び現地調査に際して海上自衛隊海上幕僚監部及び硫黄島航空基地隊気象班、気象庁火山監視・警報センターの御協力を得た。機上観察に際しては朝日新聞社の御協力を得た。以上の方々に記して御礼申し上げる。