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[SCG54-P02] 鬼界カルデラの海底カルデラ壁で掘削したボーリングコアの岩相と岩石磁気学的特徴
キーワード:鬼界カルデラ、着座型掘削装置、枕状溶岩、流動方向、帯磁率異方性
九州南方の鬼界カルデラは、カルデラ縁に位置する薩摩硫黄島と竹島を除く大部分が海没していることから地質の全容が不明であるため、過去の大規模噴火の噴火推移をはじめとする詳細な噴火史を解明することを目的とした複数の研究航海が行われている。2021年度の研究航海(KM22-01航海)では、活動履歴を明らかにするために、海洋研究開発機構所有の研究船「かいめい」に装備されている着座型掘削装置(BMS)を用いた海底ボーリング掘削が実施された(田中ほか、2023)。本発表では、カルデラ北東側のカルデラ壁上(水深180 m)で掘削された約25 mの海底ボーリングのコアの岩相及び岩石磁気学的特徴について報告する。
ボーリングコアの岩相は、海底からの深度約6 mまでは、主に堆積物からなり、構成物として粒径数cmまでの軽石、細粒の火山ガラス、鉱物及び貝の破片や有孔虫が認められる。深度6 m以深は、ち密な火山岩で構成されており、深度約6~10 mは破砕した火山岩ブロックを細粒の砕屑物が埋めるような構造が特徴的であるハイアロクラスタイトの産状を示す。深度約10 m以深では、ガラス質のリムを持つ丸みを帯びた粗粒のクラスト(ローブ)が重なり合う構造が特徴的である枕状溶岩の産状を示す。深部ほど枕状溶岩のローブが大きい傾向があり、深度21 m付近で厚さ50 cm程度のローブが認められる。このち密な火山岩は最大6 mmの斜長石を20 vol.%程度含んでおり、深さに応じた斑晶量の変化は見られない。
深度6 m以深のち密な火山岩の定置前の流動方向を推定するため、枕状溶岩の複数のローブから試料を採取し、岩石磁気学的手法のひとつであり粒子配列分析に資する帯磁率異方性(AMS)の測定を行った。採取したコアは、方位角が付けられていなかったため、各サンプルの特徴的な残留磁化成分(ChRM)を求め、その方位を、方位角0°(すなわち、北)と任意に定義した。その結果、流動方向を示唆するAMSの最大帯磁率(Kmax)の方位は、深度約15 m以浅のローブではばらつくのに対し、深度約15 m以深のローブは概ね東南東-西北西を示す結果となった。また、深度約15 m付近を境に、異方性の大きさ(P’)の傾向が変わり、深部ほど異方性が大きい結果となった。
掘削地点は、カルデラ縁上に認められる地形的高まりの南東側斜面に位置している。今回、当該地点の火山岩は、産状から海底で噴出した溶岩流であることが明らかになるとともに、岩石磁気学的特徴から、その流動方向は東南東-西北西方向と推定された。これらは、掘削地点周辺の海底地形の傾斜方向とも調和的である。これらのことから、この地形的高まりが、噴出源である可能性が考えられる。岩石磁気学的特徴として、Kmaxの方位とP’に関連性が認められたが、深部のユニットほどより流動した結果を示している可能性がある。いずれにせよ、噴火現象を解明する手段としてAMS測定は有益な情報を与えると言えよう。また、火山岩の化学組成は安山岩であるが(羽生ほか、2023)、枕状溶岩の形状を示していることから、噴出したマグマは粘性が低かった(温度が高かった)かもしれない。
本研究は原子力規制庁、茨城大学及び海洋研究開発機構の共同研究の一部として実施したものである。
参考文献
羽生ほか (2023) 鬼界カルデラの海底カルデラ壁における掘削. 日本火山学会2023年度秋季大会, B1-16.
田中ほか (2023) 鬼界海底カルデラの総合調査. 海と地球のシンポジウム2022, 6-1.
ボーリングコアの岩相は、海底からの深度約6 mまでは、主に堆積物からなり、構成物として粒径数cmまでの軽石、細粒の火山ガラス、鉱物及び貝の破片や有孔虫が認められる。深度6 m以深は、ち密な火山岩で構成されており、深度約6~10 mは破砕した火山岩ブロックを細粒の砕屑物が埋めるような構造が特徴的であるハイアロクラスタイトの産状を示す。深度約10 m以深では、ガラス質のリムを持つ丸みを帯びた粗粒のクラスト(ローブ)が重なり合う構造が特徴的である枕状溶岩の産状を示す。深部ほど枕状溶岩のローブが大きい傾向があり、深度21 m付近で厚さ50 cm程度のローブが認められる。このち密な火山岩は最大6 mmの斜長石を20 vol.%程度含んでおり、深さに応じた斑晶量の変化は見られない。
深度6 m以深のち密な火山岩の定置前の流動方向を推定するため、枕状溶岩の複数のローブから試料を採取し、岩石磁気学的手法のひとつであり粒子配列分析に資する帯磁率異方性(AMS)の測定を行った。採取したコアは、方位角が付けられていなかったため、各サンプルの特徴的な残留磁化成分(ChRM)を求め、その方位を、方位角0°(すなわち、北)と任意に定義した。その結果、流動方向を示唆するAMSの最大帯磁率(Kmax)の方位は、深度約15 m以浅のローブではばらつくのに対し、深度約15 m以深のローブは概ね東南東-西北西を示す結果となった。また、深度約15 m付近を境に、異方性の大きさ(P’)の傾向が変わり、深部ほど異方性が大きい結果となった。
掘削地点は、カルデラ縁上に認められる地形的高まりの南東側斜面に位置している。今回、当該地点の火山岩は、産状から海底で噴出した溶岩流であることが明らかになるとともに、岩石磁気学的特徴から、その流動方向は東南東-西北西方向と推定された。これらは、掘削地点周辺の海底地形の傾斜方向とも調和的である。これらのことから、この地形的高まりが、噴出源である可能性が考えられる。岩石磁気学的特徴として、Kmaxの方位とP’に関連性が認められたが、深部のユニットほどより流動した結果を示している可能性がある。いずれにせよ、噴火現象を解明する手段としてAMS測定は有益な情報を与えると言えよう。また、火山岩の化学組成は安山岩であるが(羽生ほか、2023)、枕状溶岩の形状を示していることから、噴出したマグマは粘性が低かった(温度が高かった)かもしれない。
本研究は原子力規制庁、茨城大学及び海洋研究開発機構の共同研究の一部として実施したものである。
参考文献
羽生ほか (2023) 鬼界カルデラの海底カルデラ壁における掘削. 日本火山学会2023年度秋季大会, B1-16.
田中ほか (2023) 鬼界海底カルデラの総合調査. 海と地球のシンポジウム2022, 6-1.