日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 海域火山

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、藤田 英輔(防災科学技術研究所 火山防災研究部門)、前野 深(東京大学地震研究所)、小野 重明(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[SCG54-P03] 火山灰から探る西之島2020年バイオレントストロンボリ式噴火の火道浅部過程

*森 遥平1石橋 秀巳1安田 敦2 (1.静岡大学理学部、2.東京大学地震研究所)

キーワード:バイオレントストロンボリ式噴火、火山灰、火道浅部過程、西之島、マイクロライト、苦鉄質マグマ

西之島は2013年から現在まで断続的に噴火活動を継続する火山であり,主に溶岩流を伴うストロンボリ式噴火によって島を拡大してきた.しかし,2019年12月-2020年8月に発生したエピソード4噴火では,マグマ組成がそれまでのSiO2~60 wt%の安山岩質からSiO2~55 wt%の玄武岩質安山岩に変化するとともに,より爆発的なバイオレントストロンボリ式噴火に様式が変化した.先行研究では,エピソード4の直前もしくは途中で揮発成分に富んだマグマが既存のマグマだまりに貫入・混合したことが,バイオレントストロンボリ式噴火を発生した原因と考えている (Maeno et al., 2021; Kaneko et al., 2022).しかし,苦鉄質マグマ噴火の噴火様式は火道浅部過程に強く制御されるため,バイオレントストロンボリ式噴火の発生メカニズムを解明するためには,火道浅部過程も合わせて解明する必要がある.そこで本研究では,西之島エピソード4バイオレントストロンボリ式噴火の火山灰試料について,石基の組織解析と相化学分析を行い,その結果に基づいて,同噴火の火道浅部過程を検討した.BSE像の撮影は,灰粒子59個について,静岡大学のFE-SEM (JEOL JSM-IT700HR) を用いて行った.また,石基の各鉱物とガラスの化学分析は,東京大学地震研究所のFE-EPMA (JEOL JXA-8530FPlus) を用いて行った.
火山灰粒子の約9割は石基に多量のガラスが確認できるガラス質粒子で,残りは結晶質粒子と遊離結晶であった.以下ではガラス質粒子に注目する.石基鉱物には斜長石,単斜輝石と少量のオリビン,Fe-Ti酸化物が見られた.ガラス中にはナノライトが確認できた.また,低結晶量部分が高結晶量部分を取り込む組織も見られた.
 石基の斜長石と苦鉄質鉱物の量はそれぞれ20.8-49.9 vol%と6.5-18.9 vol%で,総結晶量は30.7-69.4 vol%まで変化した.灰粒子の大部分が液体-固体遷移の起こる閾値~40 vol%を超えていたため,破砕時には固体的であったと考えられる.結晶数密度は,斜長石は結晶量に対してゆるやかに増加した一方,単斜輝石は結晶量に対して急激に増加した.このことから,斜長石は過冷却度が比較的小さく,単斜輝石は過冷却度が大きい状態で形成したと考えられる.
 ガラス・鉱物の量と化学組成から灰粒子一粒ごとの全岩化学組成を求めたところ,大部分がMaeno et al. (2021) のXRFの値と一致した.そこで,MELTS (Gualda et al., 2012) を用いて,この全岩組成を持つメルトの平衡結晶作用シミュレーション結果を結晶量と比較した.その結果,最高温度は~1100℃となり,これは輝石温度計の示す値と一致した.また,およそ半数の灰が1気圧の等圧線に沿ってプロットされた.更に,30MPa以下の等圧線に沿ってプロットされた灰も少量見られた.
以上の結果から,西之島エピソード4噴火を起こしたマグマは~1100℃で火道を上昇し,減圧結晶作用によって結晶量を増加させたために,地表付近で液体-固体遷移を起こし,脆性破砕して爆発したと考えられる.このとき,火道壁に張り付くなどして噴出しなかったものや,噴出後に火口近傍に落下したものが1気圧下で冷却・固化してプラグを形成し,脱ガスを抑制して噴火の爆発性をさらに高めた.また,深さ < ~1 kmまでの火道壁に張り付いて冷却・固化したマグマのうち,一部は後に上昇してきたマグマに剥ぎ取られ,ともに地表に噴出された.本研究の結果から,バイオレントストロンボリ式噴火の発生には,溶岩流が同時噴出できる程度にマグマの上昇速度が速すぎず,かつ1気圧に達するまでに晶出する結晶量が液体-固体遷移の閾値を超える程度にマグマが低温である必要があると考えられる.
【謝辞】本研究の灰試料は、気象庁海洋気象観測船「凌風丸」「啓風丸」が採取したものを提供していただきました。ここに記して御礼申し上げます。