17:15 〜 18:45
[SCG54-P10] 2023年10月9日JSTに発生した鳥島近海の地震に伴う顕著な海中伝搬波について
鳥島近海において、2023年10月9日の午前4時台から午前6時台(JST)までの間に発生した地震により引き起こされたと考えられる数十cmの津波が、伊豆・小笠原諸島並びに日本の南岸の各地において観測された(気象庁, 2023a)。当該地震は、観測された実体波（P波及びS波）自体の振幅が小さく，マグニチュードが決まらない一方で，海中の深海サウンドチャネル（Sound Fixing and Ranging，SOFARチャネル）を伝搬した海中伝搬波（T波）が小笠原や一部の陸上の地震計で観測されるという特異な地震であり、同時間帯に少なくとも14個の同様のイベントの発生が報告されている(気象庁, 2023b)。これらのイベントは、T波到達時刻の解析から、その発生源が孀婦岩の西方の孀婦海山周辺にあると推定され、海底地形調査からカルデラ状の海底地形の存在が確認されている(JAMSTEC, 2023)。
これらの報告により、これらのイベントが海底火山活動に関係していることが示唆される。そこで、地震計により検出されたこれらの海中伝搬波について、解析並びに考察を行った。まず、防災科学技術研究所により日本海溝沿いに設置された「日本海溝海底地震津波観測網」(S-net)を構成する海底地震計データ、並びに気象庁の陸上観測点の速度型地震計上下動成分のデータを使用した。いずれも防災科学技術研究所のホームページからダウンロードした。S-net全観測点の速度計の波形データについては、速度計に併設されている加速度計で計測される重力の方向を基に鉛直成分を算出して解析に使用した。重力成分は，10月9日00:00 JSTから3時間の加速度計データを時間平均して求めた。観測データのサンプリング周波数は100 Hzである。
地震波の振幅が小さく震源決定精度が悪いためと推測されるが，前記の14個のイベントの大半は、気象庁の一元化震源リストには掲載されていない。そこで，一連のイベントの震央を同一と仮定し，同リストに記載されている05:13の地震(M5.2)の震央の位置に海中伝搬波の音源があると仮定して各観測点までの伝搬時間を計算し，観測点毎に観測波形の時間軸を伝搬時間分ずらし（観測時刻から差し引いて）伝搬距離順に波形を並べた図を作成した。音速は，Iwase (2022)において福徳岡ノ場の海底火山噴火に伴う海中伝搬波の音速として推定された1472 m/sと仮定した。作成した図の例をFig. 1-3に示す。横軸は各観測点で検出した信号の発生源での発出時刻に相当し，Fig. 1は06:00 JSTから1時間、Fig. 2及びFig. 3はそれぞれ06:00 JST及び06:08 JSTからの2分間を拡大した図である。縦軸は伝搬距離(km)を示す。波形は，黒線がS-net観測点，赤線が気象庁観測点である。気象庁観測点の3観測点が音源に最も近い場所に位置しており，音源に近い方から，青ヶ島(AOGASM)，父島(CHIJI3)，母島(HAHAJ2)の各観測点となっている。縦に並んだ信号が，観測された海中伝搬波である。前記の14個のイベントのうち，Fig.1に6個のイベントが記録されている。Fig.2及びFig.3では、特に音源に近い気象庁観測点は，S-net観測点に比べて信号が遅延しているように見えることに加え，長周期成分が卓越している。気象庁観測点が信号発生源と思われる地点の南北に位置していることから、この遅延が信号発生源と震央の位置のずれによるものとは考えにくいが、T波到達時刻の検出に影響を与える可能性があり、詳細な検討が必要である。また、Fig.3に見られるように、いくつかのイベントは複数のサブイベントで構成されていることが示唆される。加えて、Fig.1では、いずれのイベントにも右下がりの信号が後続波として記録されている。これはS-net観測網の北側で反射した海中伝搬波と考えられ、その成因の考察も含め、今後詳細に解析する。
謝辞
防災科学技術研究所(https://doi.org/10.17598/NIED.0007)及び気象庁の公開データを利用しました。伝搬距離の計算には国土地理院のサイトを利用しました。
参考文献
気象庁(2023a)，https://www.jma.go.jp/jma/press/2310/09b/kaisetsu202310091100.pdf.
気象庁(2023b)，https://www.jishin.go.jp/main/suihon/erc391/erc391-4.pdf.
JAMSTEC (2023)，https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20231121/.
Iwase (2022), Proc. USE2022, 3J1-4.
これらの報告により、これらのイベントが海底火山活動に関係していることが示唆される。そこで、地震計により検出されたこれらの海中伝搬波について、解析並びに考察を行った。まず、防災科学技術研究所により日本海溝沿いに設置された「日本海溝海底地震津波観測網」(S-net)を構成する海底地震計データ、並びに気象庁の陸上観測点の速度型地震計上下動成分のデータを使用した。いずれも防災科学技術研究所のホームページからダウンロードした。S-net全観測点の速度計の波形データについては、速度計に併設されている加速度計で計測される重力の方向を基に鉛直成分を算出して解析に使用した。重力成分は，10月9日00:00 JSTから3時間の加速度計データを時間平均して求めた。観測データのサンプリング周波数は100 Hzである。
地震波の振幅が小さく震源決定精度が悪いためと推測されるが，前記の14個のイベントの大半は、気象庁の一元化震源リストには掲載されていない。そこで，一連のイベントの震央を同一と仮定し，同リストに記載されている05:13の地震(M5.2)の震央の位置に海中伝搬波の音源があると仮定して各観測点までの伝搬時間を計算し，観測点毎に観測波形の時間軸を伝搬時間分ずらし（観測時刻から差し引いて）伝搬距離順に波形を並べた図を作成した。音速は，Iwase (2022)において福徳岡ノ場の海底火山噴火に伴う海中伝搬波の音速として推定された1472 m/sと仮定した。作成した図の例をFig. 1-3に示す。横軸は各観測点で検出した信号の発生源での発出時刻に相当し，Fig. 1は06:00 JSTから1時間、Fig. 2及びFig. 3はそれぞれ06:00 JST及び06:08 JSTからの2分間を拡大した図である。縦軸は伝搬距離(km)を示す。波形は，黒線がS-net観測点，赤線が気象庁観測点である。気象庁観測点の3観測点が音源に最も近い場所に位置しており，音源に近い方から，青ヶ島(AOGASM)，父島(CHIJI3)，母島(HAHAJ2)の各観測点となっている。縦に並んだ信号が，観測された海中伝搬波である。前記の14個のイベントのうち，Fig.1に6個のイベントが記録されている。Fig.2及びFig.3では、特に音源に近い気象庁観測点は，S-net観測点に比べて信号が遅延しているように見えることに加え，長周期成分が卓越している。気象庁観測点が信号発生源と思われる地点の南北に位置していることから、この遅延が信号発生源と震央の位置のずれによるものとは考えにくいが、T波到達時刻の検出に影響を与える可能性があり、詳細な検討が必要である。また、Fig.3に見られるように、いくつかのイベントは複数のサブイベントで構成されていることが示唆される。加えて、Fig.1では、いずれのイベントにも右下がりの信号が後続波として記録されている。これはS-net観測網の北側で反射した海中伝搬波と考えられ、その成因の考察も含め、今後詳細に解析する。
謝辞
防災科学技術研究所(https://doi.org/10.17598/NIED.0007)及び気象庁の公開データを利用しました。伝搬距離の計算には国土地理院のサイトを利用しました。
参考文献
気象庁(2023a)，https://www.jma.go.jp/jma/press/2310/09b/kaisetsu202310091100.pdf.
気象庁(2023b)，https://www.jishin.go.jp/main/suihon/erc391/erc391-4.pdf.
JAMSTEC (2023)，https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20231121/.
Iwase (2022), Proc. USE2022, 3J1-4.