日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 変動帯ダイナミクス

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:15 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、座長:小森 純希(Earth Observatory of Singapore)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

10:00 〜 10:15

[SCG55-05] InSARとGNSSで検出した台湾東部における2022年Chihshang地震の余効変動

*石丸 雄理1高田 陽一郎2景 國恩3、張 午龍4 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院、3.国立成功大学、4.国立中央大学)

キーワード:InSAR、GNSS、地震、断層、台湾、余効変動

台湾はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの衝突境界に位置し,東部に存在する台東縦谷断層(Longitudinal Valley Fault, LVF)と中央山脈断層(Central Range Fault, CRF)の2つの活断層がプレート収束運動の多くを解消している.CRFでは2022年9月17日にGuanshan地震(Mw 6.5)が発生し,その約17時間後の9月18日にChihshang地震(Mw 7.0)が発生した.Chihshang地震ではLVFの運動も誘発されたことが明らかになっている(Lee et al., 2023; Tang et al., 2023)が,そもそもこれらの断層面上にどのような応力が蓄積し,地震によってどのように再配分されたかは明らかになっていない.本研究ではInSARとGNSSのデータを用いてChihshang地震後の余効変動を面的かつ高精度に検出し,CRFとLVFへの応力蓄積・再配分のプロセスを明らかにすることを目的とする.
まず精密単独測位(PPP)によって得たGNSSの日座標値からChihshang地震後1年間の各観測点の変位場を調べたところ,LVFに沿った変位の不連続(図a;約10 cmの西側隆起と約10 cmの左横ずれ)が明らかになった.これは地震前にLVFで見られた約2 cm/yrの定常的な収束と西側のわずかな沈降とは明瞭に異なるパターンである.台湾東部は地形が急峻なためGNSS観測点が少なく,変位場の全体像を捉えることが難しいため,地上観測点を必要としないInSARを用いてより詳細な変位場を調べた.台湾東部は植生に覆われているため,植生を透過するALOS-2のLバンドSARデータを用いた.電離圏擾乱の補正には,Split Spectrum Method(Gomba et al., 2016; Wegmüller et al., 2018)を用いた.またGACOS(Yu et al., 2018)を用いて対流圏擾乱の影響も補正した.2022年9月から2023年12月までに撮像された17枚のScanSARデータから39枚の干渉画像を作成し(図b),これらに上記の補正を施した上でスタッキングした.その結果,(1)LVFを境とする変位の不連続,(2)CRF西部全域における衛星に近づく変位,(3)Tang et al.(2023)によって推定されたChihshang地震のすべり域におけるすべり欠損が示された.(2)は主にCRFの余効すべりによるもので,一部は周辺領域の非弾性流動によるものであると推測される.これらの特徴はChihshang地震前の応力分布と,LVFとCRFの相互作用を定量的に理解するための鍵となりうる.今後はGNSSとInSARの時間発展を説明するモデルを構築し,LVFとCRFにおける応力の蓄積と再配分のプロセスを解明する.