10:45 〜 11:00
[SCG55-06] 7300年前の鬼界アカホヤ噴火以降の海底溶岩ドーム直下のマグマ供給系の進化(続編)
★招待講演
キーワード:鬼界カルデラ、アカホヤ噴火、後カルデラ火山活動
研究の背景
巨大噴火(噴出量が10 km3を超える噴火)は、日本のような変動帯における変動現象の一つであるが、発生頻度が低いため、噴火前の準備プロセスや噴火後のプロセスについて未だ十分に理解されていない。鬼界カルデラは、巨大噴火を何度も起こしてきた海域火山の一つである。7300年前に起こった巨大噴火であるアカホヤ噴火以降、次の巨大噴火に向けてマグマの蓄積が進んでいる。
海洋研究開発機構と神戸大学は、2019年から共同で「鬼界カルデラ総合調査」を実施している。この調査の一環で実施された合計3回の航海時に海底カルデラから採取された試料の化学分析を行った。本講演では、鉱物およびメルト包有物の主成分元素組成に基づき、鬼界カルデラにおける現在のマグマ蓄積条件について議論する。
試料と分析手法
海底カルデラ内の溶岩ドーム及び周辺の火口丘、カルデラ壁周辺、およびカルデラ外の南西側火山体の合計22地点から岩石試料をドレッジにて採取した。これらの試料はいずれも流紋岩質であり、斜長石、単斜輝石、直方輝石、磁鉄鉱、イルメナイトが斑晶鉱物として含まれている。斑晶鉱物のモードは25 vol%以下、発泡度は試料毎に異なるが10~40 vol%である。航海後に、それぞれの試料の全岩化学組成を蛍光X線分析装置(XRF)を用いて分析した。また、各鉱物とガラスの組成を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて局所分析した。
分析結果と議論
ドレッジにて採取された試料は、全岩のSiO2含有量が68~71 wt%の流紋岩であり、その大部分は鬼界カルデラにおける「硫黄岳後期」(2200年前以降)の流紋岩質噴出物と同じ化学的特徴を持つ。このことは、「硫黄岳後期」にカルデラ内に溶岩ドーム、さらにはカルデラ外の南西側火山体が急速に成長したことを示す。一方、内側のカルデラの東側の火口丘、および外側のカルデラ壁における地形的高まりの一部から採取された試料には、「硫黄岳前期」(5200年前から3900年前)と「硫黄岳後期」(2200年前以降)の噴出物の化学的特徴を示すものの合計2種類が含まれており、採取地点がより古い山体であることを示す。
海底カルデラ内の溶岩ドームから採取された試料中の磁鉄鉱の組成はMt70-73Usp27-30,イルメナイトの組成はHm20-30Ilm70-80であり、Fe-Ti酸化物地質温度計・酸素分圧計で見積もられた温度は900~940℃であった。酸素雰囲気はNi-NiOバッファーよりも0.8ログユニット高かった(NNO+0.8)。斜長石のコア部分は An50~An70(組成塁帯構造あり)、リム部分はAn45~An50である。斜長石とメルト包有物の元素分配からメルトの含水量は2.2~3.5重量%と見積もられる。
一方、より外側の地点からは採取された試料中の磁鉄鉱の組成は、Mt63-74Usp26-37、イルメナイトの組成はHm13-32Ilm68-87であり、組成のバリエーションが大きい。これを反映して、Fe-Ti酸化物地質温度計・酸素分圧計で見積もられる温度は870~970℃である。酸素雰囲気はNNO+0.3~NNO+1.1であり、カルデラ内溶岩ドーム試料の酸素雰囲気とは誤差の範囲で一致する。斜長石のコア部分は An36~An83(組成塁帯構造あり)、リム部分はAn40~An50である。斜長石とメルト包有物の元素分配からメルトの含水量は1.5~2.2重量%と見積もられ、カルデラ内溶岩ドーム試料と比較して低含水量である。
海底試料から見積もられたマグマの温度や酸素雰囲気は、硫黄岳や昭和硫黄島の陸上試料から見積もられたマグマの温度や酸素雰囲気と同程度である。玄武岩マグマから熱の供給を受けたり、一部では苦鉄質包有物を取り込むようなマグマ混合・混交が起こっているために、流紋岩マグマとしては比較的高温であると考えられる。カルデラの内側と外側で、見積もられる含水量が異なる理由としては、マグマ溜まりの深さが異なるために飽和含水量が異なっている可能性が考えられる。すなわち、カルデラ内溶岩ドームの直下ではマグマ溜まりが地下2~4kmであるのに対し、カルデラの外側ではマグマ溜まりがより浅い可能性が考えられる。
以上は、岩石試料の主成分元素組成からの制約であるが、現在、試料の微量元素組成や同位体組成の分析も進行している。今後はそれらの情報も統合して、鬼界カルデラのマグマの起源を制約したり、マグマ蓄積条件をより詳細に明らかにしていきたい。さらには、地球物理学的観測によって、鬼界カルデラ直下に蓄積されたマグマの空間的広がりについて明らかにされることを期待する。
巨大噴火(噴出量が10 km3を超える噴火)は、日本のような変動帯における変動現象の一つであるが、発生頻度が低いため、噴火前の準備プロセスや噴火後のプロセスについて未だ十分に理解されていない。鬼界カルデラは、巨大噴火を何度も起こしてきた海域火山の一つである。7300年前に起こった巨大噴火であるアカホヤ噴火以降、次の巨大噴火に向けてマグマの蓄積が進んでいる。
海洋研究開発機構と神戸大学は、2019年から共同で「鬼界カルデラ総合調査」を実施している。この調査の一環で実施された合計3回の航海時に海底カルデラから採取された試料の化学分析を行った。本講演では、鉱物およびメルト包有物の主成分元素組成に基づき、鬼界カルデラにおける現在のマグマ蓄積条件について議論する。
試料と分析手法
海底カルデラ内の溶岩ドーム及び周辺の火口丘、カルデラ壁周辺、およびカルデラ外の南西側火山体の合計22地点から岩石試料をドレッジにて採取した。これらの試料はいずれも流紋岩質であり、斜長石、単斜輝石、直方輝石、磁鉄鉱、イルメナイトが斑晶鉱物として含まれている。斑晶鉱物のモードは25 vol%以下、発泡度は試料毎に異なるが10~40 vol%である。航海後に、それぞれの試料の全岩化学組成を蛍光X線分析装置(XRF)を用いて分析した。また、各鉱物とガラスの組成を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて局所分析した。
分析結果と議論
ドレッジにて採取された試料は、全岩のSiO2含有量が68~71 wt%の流紋岩であり、その大部分は鬼界カルデラにおける「硫黄岳後期」(2200年前以降)の流紋岩質噴出物と同じ化学的特徴を持つ。このことは、「硫黄岳後期」にカルデラ内に溶岩ドーム、さらにはカルデラ外の南西側火山体が急速に成長したことを示す。一方、内側のカルデラの東側の火口丘、および外側のカルデラ壁における地形的高まりの一部から採取された試料には、「硫黄岳前期」(5200年前から3900年前)と「硫黄岳後期」(2200年前以降)の噴出物の化学的特徴を示すものの合計2種類が含まれており、採取地点がより古い山体であることを示す。
海底カルデラ内の溶岩ドームから採取された試料中の磁鉄鉱の組成はMt70-73Usp27-30,イルメナイトの組成はHm20-30Ilm70-80であり、Fe-Ti酸化物地質温度計・酸素分圧計で見積もられた温度は900~940℃であった。酸素雰囲気はNi-NiOバッファーよりも0.8ログユニット高かった(NNO+0.8)。斜長石のコア部分は An50~An70(組成塁帯構造あり)、リム部分はAn45~An50である。斜長石とメルト包有物の元素分配からメルトの含水量は2.2~3.5重量%と見積もられる。
一方、より外側の地点からは採取された試料中の磁鉄鉱の組成は、Mt63-74Usp26-37、イルメナイトの組成はHm13-32Ilm68-87であり、組成のバリエーションが大きい。これを反映して、Fe-Ti酸化物地質温度計・酸素分圧計で見積もられる温度は870~970℃である。酸素雰囲気はNNO+0.3~NNO+1.1であり、カルデラ内溶岩ドーム試料の酸素雰囲気とは誤差の範囲で一致する。斜長石のコア部分は An36~An83(組成塁帯構造あり)、リム部分はAn40~An50である。斜長石とメルト包有物の元素分配からメルトの含水量は1.5~2.2重量%と見積もられ、カルデラ内溶岩ドーム試料と比較して低含水量である。
海底試料から見積もられたマグマの温度や酸素雰囲気は、硫黄岳や昭和硫黄島の陸上試料から見積もられたマグマの温度や酸素雰囲気と同程度である。玄武岩マグマから熱の供給を受けたり、一部では苦鉄質包有物を取り込むようなマグマ混合・混交が起こっているために、流紋岩マグマとしては比較的高温であると考えられる。カルデラの内側と外側で、見積もられる含水量が異なる理由としては、マグマ溜まりの深さが異なるために飽和含水量が異なっている可能性が考えられる。すなわち、カルデラ内溶岩ドームの直下ではマグマ溜まりが地下2~4kmであるのに対し、カルデラの外側ではマグマ溜まりがより浅い可能性が考えられる。
以上は、岩石試料の主成分元素組成からの制約であるが、現在、試料の微量元素組成や同位体組成の分析も進行している。今後はそれらの情報も統合して、鬼界カルデラのマグマの起源を制約したり、マグマ蓄積条件をより詳細に明らかにしていきたい。さらには、地球物理学的観測によって、鬼界カルデラ直下に蓄積されたマグマの空間的広がりについて明らかにされることを期待する。