[S-CG55] 変動帯ダイナミクス

[SCG55-13] 水平圧縮応力場で形成された正断層

*小林 健太¹ (1.新潟大学理学部地質科学教室)

キーワード：小断層、多重逆解法、古応力、新津丘陵、新潟県

ひとつの応力区内で生じる断層運動が均一とは限らない．例えば，水平圧縮が進行する地域でも，逆断層型以外のメカニズム解を示す内陸地震は混在するが，特に問題視されていない．一方，小断層を対象として応力逆解析を行う場合，それらが標準的かあるいは例外的かの判断によって，誤った結論に至る危険性がある．
新潟県新津丘陵には，中新世〜更新世の堆積岩・火山岩類が分布し，東西ないし北西-南東圧縮を示唆する褶曲・断層構造が形成されている．北部フォッサマグナに属する新潟堆積盆地の，標準的な層序と地質構造を有すると考えられてきた．この地域に形成された小断層を対象に，性状の記載と応力逆解析を行った（以下，小林ほか，2023）．上部中新統〜鮮新統金津層について，約80セットのスリップデータを得た．断層は北または南傾斜であり，傾斜隔離は数cm-10数cm程度である．ほとんどは断層ガウジを伴わない．また，群集して個々の隔離は小さいが，表面に条線が観察され断層と判断されるもの（小変位断層）が識別された．さらに，断層ガウジを伴う複数の断層が並走し，変位量が数mに及ぶものがある（大変位断層）．加えて，更新統矢代田層について，約20セットのスリップデータを得た．断層は矢代田層の下部層では北西，同上部層では北東あるいは南西に傾斜するものが多い．
取得したスリップデータについて，当地域の先行研究である冨田・山路（2001）と同じ条件で多重逆解法を用いて応力解析を行った．金津層からの結果として，クラスター1・2・3が識別された．σ1は共通して鉛直（正断層型），σ3は1：基円上に分布，2：北北西-南南東，3：北東-南西を各々示す．冨田・山路（2001）の応力A・B・Cに，各々対比される．小変位断層ではクラスター3，それを除いた断層ではクラスター2が卓越することが明らかとなった．一方，大変位断層では，横ずれ型と正断層型の解が共存する．矢代田層上部のデータは少なく暫定的であるが，正断層型の解を得た．
基礎試錐「新津」では，4,000m以深での東西圧縮かつ横ずれ型の地下応力方位と，正の花弁構造が推定されている（今村・岩田，2004）．地表で観られる正断層は，背斜の発達に伴い現れた伸長現象である．σ3が背斜軸と直交に近いクラスター2は bending-moment fault によって，クラスター3は背斜軸方向への伸長によって，各々形成されたと考えられる．一方，大変位断層からの結果は地下応力方位に近く，それを被り生じた断層運動が浅所まで達した可能性がある．