日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 変動帯ダイナミクス

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

17:15 〜 18:45

[SCG55-P02] 与那国島のマイクロアトールからみた最近数十年間の与那国島の上下地殻変動

*中村 衛1安部 祐志1 (1.琉球大学理学部)

キーワード:地殻変動、琉球、マイクロアトール、与那国島

与那国島は最終間氷期の海成段丘が標高18~30mに分布し、0.1~0.2 mm/yrの速度で隆起している(大村・他、1994)。島の北部や西部にある約1500~500 BPのビーチロックの標高も中潮位~高潮位である(小元、2003)。段丘から推定した隆起速度をビーチロックの形成年代に当てはめると、約500~1500年の間の隆起量は0.05~0.3 mとなる。この隆起量はビーチロックの標高と矛盾しない。一方、国土地理院のGNSS連続観測からは、GNSS観測の始まった1998年以降、与那国島が平均7.5 mm/yrで隆起しているようにみえる。地形学的に見た隆起速度と測地学的に見た与那国の隆起速度の矛盾を解決するため、サンゴマイクロアトールを用いて最近数十年間の上下変動を調べた。
調査は与那国島の北部、南部、西部の3地点で、現生マイクロアトールの形状を測定した。西部のナーマ浜にあるマイクロアトールと南部のカタバル浜にある現生マイクロアトールは、いずれも頂面はほぼフラットであるが、周辺部で高度が緩やかに低くなるHat型の形状をしていた。西部のマイクロアトールの縁辺は、幅20~30cmの範囲で、外側に向かうにつれて高度が緩やかに約10 cm減少する。最縁辺の高度は-1.06 m(TP)である。大きなマイクロアトールでは、頂面に環状の隆起した構造が見られる。南部のマイクロアトールは、幅30cmの範囲で、外側に向かうにつれて高度が緩やかに約12 cm減少する。最縁辺の高度は-1.11 m(TP)である。
これらのマイクロアトールの形状は、与那国島で最近海面の緩やかな低下が起こったことを示している。与那国島以外の先島諸島にあるマイクロアトールには、最近20年間に10cmの海面低下が起こった痕跡はみられない(Debaecker et al., 2023)。そこでこの変化を全て地殻変動の影響とすると、与那国島は最近約10 cm隆起したことになる。マイクロアトールのサンプリングは行っておらず、形状のみの調査であるため、マイクロアトールの成長履歴は不明である。そこで先島諸島でのマイクロアトールの成長速度(Debaecker et al., 2023)の平均値(0.77 cm/yr)を用いて、頂面の高度が変化する位置から地殻変動の開始時期を推定した。すると海面の低下は15~23年前に始まったことになる。これは与那国島直下で発生したアフタースリップの開始時期(Nakamura, 2009)に近い。アフタースリップは2002年3月ごろから始まり、約5年程度継続した。久部良にある国土地理院のGNSS記録では、アフタースリップによる隆起量は約8 cmであり、マイクロアトールで推定した隆起量とほぼ同じ値である。従って、この隆起は2002年に始まったアフタースリップの影響によるものと考えられる。
マイクロアトールの頂面は、周辺域以外はフラットに近い。このことは、与那国島の隆起が一時的であり、アフタースリップ以前の上下地殻変動は小さかった可能性があることを示している。マイクロアトールの直径は約2~3 mであることから、頂面の形状は最近約80~120年間の海面変動を反映していると考えられる。つまり、与那国島は最近約80~120年間、2002年アフタースリップで隆起した以外は、ほとんど隆起しなかった可能性がある。
与那国島の上下地殻変動の要因として、島およびその周辺の正断層活動や、沖縄トラフのリフティングによる粘弾性効果(岩佐・日置、2018)が挙げられる。しかしプレートの沈み込みに起因するスロー地震もこの変動に寄与している可能性がある。