[S-CG55] 変動帯ダイナミクス

[SCG55-P03] 地震データとGNSSデータの解析でみる日奈久断層帯の応力場・歪み速度場の特徴

*永山 勇志¹、松本 聡²、松島 健²、江本 賢太郎²、太佐 駿吾¹、髙山 竜之介¹、河野 太紀¹、奥田 祐大¹ (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

キーワード：熊本地方、日奈久断層帯、応力場、歪み速度場

2016年に九州地方の熊本県で発生した2016年熊本地震は最大前震(M6.5)と本震(M7.3)によって日奈久断層帯の北部と布田川断層帯において大きな破壊が生じた．一方，日奈久断層帯南部では一連の地震活動で大きな破壊が生じておらず，将来大地震が発生する可能性を有している．この日奈久断層帯南部と周辺領域が現在どのような応力・変形状態にあるのかについて考えることを本研究の目的とする．用いたデータは九州大学地震火山観測研究センターが日奈久断層帯周辺に設置している稠密地震観測網である0.01満点観測点とその他の臨時・定常地震観測点で得られたデータに加え，国土地理院が運用しているGNSS連続観測システムGEONETの電子基準点日々の座標値(F5解)を用いて解析を行った．地震観測点の間隔はおよそ5km，GNSS観測点の間隔はおよそ25kmである．地震データからは各地震イベントの震源位置，発生メカニズムを示す発震機構解と，その発震機構解から得られる地震モーメントテンソルを求めた．対象領域を緯度経度0.05°間隔の格子でブロック分けをし，さらに主要断層面(日奈久，緑川断層)をブロック境界とした．各ブロック内で地震モーメントテンソルを足し合わせることによって地震発生領域における応力場を推定した．また，GNSSデータからは観測点の各日の位置座標を示す日々の座標値から人為的な変動や季節変動を除去したうえで，定常的な変位速度と単位時間あたりの変形の割合を示す歪み速度を計算することによって日奈久断層帯周辺の歪み速度場を推定した．
解析の結果，日奈久断層帯周辺の領域で応力場と歪み速度場を推定し，両者の主軸の向きを推定することができた．推定された両者の主軸の向きを比較したところ，日奈久断層帯の西側では両者ともおおよそ南北伸張・東西圧縮の傾向を示していたが，日奈久断層帯の東側の緑川断層周辺において両者の主軸の向きに大きな違いが見られた．さらに， GNSSデータからは，2016年熊本地震の震源域の西側に位置する宇土半島周辺で，水平方向に拡大する傾向の地殻変動が熊本地震後から見られ，現在も継続していることが確認された．
九州地方に位置する熊本地方は，北部には別府―島原地溝帯，南部には九州を横断する形で存在するせん断帯が存在するなど，複雑なテクトニックな場が形成されていることが報告されている．九州地方とその周辺領域の広域なテクトニック活動が日奈久断層帯の応力・変形状態にどのような影響を及ぼしているのかについても考慮することが今後の課題である．