日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 変動帯ダイナミクス

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

17:15 〜 18:45

[SCG55-P11] 弾性-粘弾性成層構造媒質中の断層運動が作る非直観的な変位場について

*小出 鯉太朗1深畑 幸俊2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学防災研究所)

キーワード:変位場、粘弾性緩和、地形発達

断層の作る変位場には,しばしば直観的に理解しにくいものがある.無限弾性媒質の場合には,断層について対称な変位場となり,ダブルカップルの力を考えることで容易に理解できる.しかし,例えば半無限弾性媒質中の逆断層が作る地表面変位は,上盤側が大きく隆起する一方,下盤側の沈降量は隆起量に比べてはるかに小さいという非対称なパターンを示す.これは,自由表面の影響を考慮することで理解できる.さらに,岡田 (2003)は,逆断層運動が起こった場合でも,下盤側に沈降が生じないケースがあることを示した.媒質が粘弾性層を含む場合,変形場の直観的理解がさらに難しくなる.
本研究では,弾性-粘弾性二層構造媒質中の断層運動が作る変位場を計算し,その変形メカニズムを考察した.計算にはFukahata & Matsu’ura (2005, 2006)の半解析解を使用した.  
表層 (弾性層) の浅部,中間部,深部のそれぞれの深さに逆断層を置いたときに生じる地表面の上下変位場を計算した.浅部に逆断層を置いた場合には,上盤側は弾性変形で隆起し,その後の粘弾性緩和によって沈降が生じた.一方,弾性層の深部に逆断層を置いた場合には,弾性変形で全体的に隆起し,粘弾性緩和でさらに隆起が大きくなった.この結果は,粘弾性緩和は重力平衡を回復するように起きるという理解が必ずしも正しくないことを示している.これらの変位場の特徴を物理的に理解するために,内部変形についても計算した.浅部に逆断層を置いた場合,緩和完了後には断層周辺で全体に下向きの変位が生じた.逆に,弾性層の深部に逆断層を置いた場合,緩和完了後には断層周辺で全体に上向きの変位が生じた.一般に,粘弾性緩和の完了後には,粘弾性層が液体のように振る舞うために弾性層は板状に変形する.逆断層にかかる力は水平圧縮だが,弾性層の浅部・深部のどちらかのみに断層が存在する場合には,断層部分で強制的に短縮が起きることで短縮量の不均衡が生まれ,断層がある部分が凹むように弾性板が曲がる変形をし,上述の変形場が生じたと考えられる.
弾性層内にある水平断層が作る変位場についても計算した.水平断層の上側が左に,下側が右に動く変位の食い違いを与えた場合,弾性変形により断層の左端付近で隆起,右端付近で沈降した.そして,粘弾性緩和により,さらに隆起と沈降が大きくなった.内部変形場を見ると,粘弾性緩和後には,断層の左側で鉛直上向き,右側で下向きの変位となった.緩和完了後には,弾性層が弾性板として振る舞う.このとき,弾性媒質の厚みが上下方向には有限であるのに対し,水平方向には無限であるため,ダブルカップルの力のうち鉛直方向の力が変形に大きく寄与すると考えられる.こうして,断層の両端で対称な上下方向の変位が生じるのであろう.