日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM12] Electric, magnetic and electromagnetic survey technologies and scientific achievements

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:後藤 忠徳(兵庫県立大学大学院理学研究科)、臼井 嘉哉(東京大学地震研究所)、Li Yuguo(Ocean University of China)、Heise Wiebke(GNS Science, PO Box 30368, Lower Hutt, New Zealand)、座長:南 拓人(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻新領域惑星学講座)、臼井 嘉哉(東京大学地震研究所)

11:00 〜 11:15

[SEM12-07] UAV搭載電磁探査による熱水噴火発生場の比抵抗構造監視に向けた挑戦

*萬年 一剛1、城森 明2道家 涼介3宇津木 充4、藤本 光一郎5南 拓人6 (1.神奈川県温泉地学研究所、2.有限会社ネオサイエンス、3.弘前大学、4.京都大学、5.東京学芸大学、6.神戸大学)

キーワード:ドローン、噴気地帯、熱水噴火、熱水系、TDEM、CSAMT

箱根火山の大涌谷噴気地帯では、2015年に小規模な熱水噴火が発生したが、ここではCSAMT法による比抵抗構造探査により、火山活動の消長に応じた比抵抗構造変化が認められている(Mannen et al., 2019)。さらに頻繁な比抵抗構造の取得が可能になれば、地下で発生している変化の解釈や他の観測との対応が容易になると考えられる。UAV搭載型電磁探査法は、探査に要する時間が短く、人が探査範囲に立ち入る必要がないため、頻繁な比抵抗構造の取得を安全に実施できる。こうした特徴は火山活動が活発化した時に特に有利である。
我々は、噴気地帯においてCSAMT法と同程度の探査深度や解像度をもつ電磁探査の頻繁な実施を可能とすることを目的に、2021年度から5年計画で大涌谷をテストフィールドに、UAV搭載型電磁探査法を試験している。本講演ではこれまでの3年間の結果を報告する。
 今回実施したUAV搭載型電磁探査では、地上に送信源を設置し、UAVで信号を受信する時間領域電磁探査(TDEM; Time Domain Electromagnetic)法を用いた。送信源は円形に設置した電線に電流を流すループ型のほか、離れた2箇所に電極を設置して電流を流すバイポール型がある。送信源で電流は「通電(プラス)・遮断・通電(−)・遮断」を1サイクルとするパターンで流される。
送信源で電流を流すことで磁場が生じて地中にも浸透する。これを1次磁場と呼ぶ。送信源の電流が止まると、1次磁場も遮断され、地下に電磁誘導を引き起こす。同様に、送信源で遮断から通電に転じる時も地下に電磁誘導が引き起こされる。1次磁場の遮断や発生による電磁誘導は地下に誘導電流を発生させ、その誘導電流により磁場が発生する。これを2次磁場と呼ぶ。TDEM法ではこの2次磁場の強度の時間変化(過渡応答曲線)を、UAVに吊り下げたインダクションコイルで捉える。
 初年度の2021年度は、送信源は深い探査深度が得られるとされるバイポール型を採用し、同じ送信源を使って、ほぼ同じ測線上でUAV搭載型電磁探査とCSAMT探査を実施することにより、両者を比較することを目的とした。その結果、CSAMT探査では探査範囲の全領域において従来同様に400 m程度の探査深度が得られたものの、UAV搭載型電磁探査では、測線のかなりの部分で過渡応答曲線の抽出が困難という予期せぬ結果となった。その理由は(1)信号強度が小さいこと、(2)信号と同期した発振源不明の電磁波ノイズが過渡応答曲線に載ってしまったこと、などがあげられた。
 2年目の2022年度は、送信源の電極を多くして接地抵抗を前年の130〜150Ωから126Ωに下げ、電流を前年度の5.9Aから6.3Aと増加させて信号強度の改善を狙ったほか、同期ノイズを避けるために送信側の1サイクルを1年目の16.0 msから8.0msへ変更するなどの対応を行った。しかし、UAV及び地表での測定から、1次磁場に対して,非常に強い2次磁場,あるいは迷走電流が存在して2次磁場の測定を著しく困難にしているとともに,複雑な電磁場を形成していることがわかった。特に、道路や林道や付近で異常な過渡応答曲線が取得されることから、地中の人工的な導体が、こうした複雑な電磁場を形成する要因と推定された。
 3年目の2023年度は、大地に浸透する磁場がより均質であると考えられるループ型の送信源を大涌谷の西、通称大涌谷園地に設置してUAV搭載型電磁探査を実施した。その結果、それまでの2回に比べて大幅に良好な過渡応答曲線が得られたものの、探査深度は50〜100 m程度と非常に浅く、目的とする熱水系の深度には到達しなかった。そこで、過渡応答曲線の数値積分をおこない低周波成分に重みをつけたデータに基づいて、2次元逆解析を実施したところ、探査深度は300 m前後と大幅に改善した。一方、得られた2次元比抵抗構造をCSAMT探査により得られたものと比較したところ、異なる構造的特徴も確認されるため、現在解析中である。
 以上のように、大涌谷のような観光地化した噴気地帯においては、人工的なノイズ源や導体がUAV搭載型電磁探査の大きな障害となることが明らかとなった。防災を視野に入れたモニタリングを要するような噴気地帯は程度の差はあれ、人工物は存在する。UAV搭載型電磁探査を実施する際には、本研究で得られた様々な教訓を念頭した、十分な予備調査期間が必要であろう。