日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM13] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:臼井 洋一(金沢大学)、川村 紀子(海上保安大学校 基礎教育講座)

17:15 〜 18:45

[SEM13-P11] 上部白亜系蝦夷層群羽幌川層の古地磁気学的検討―石灰質ノジュール試料の磁気特性と極性推定のための手法開発(予察)―

*穴井 千里1渋谷 秀敏2、辻野 泰之3、小松 俊文4、黄木 陽人5 (1.高知大学海洋コア国際研究所、2.同志社大学文化遺産情報科学調査研究センター、3.徳島県立博物館、4.熊本大学先端科学研究部、5.熊本大学大学院自然科学教育部地球環境科学)

キーワード:蝦夷層群、サントニアンーカンパニアン境界

古地磁気学的検討を行う際には、初生磁化成分と熱変質や化学反応に伴い獲得される二次磁化成分を特定し、目的に応じて選択的に消磁を行う必要がある。特に年代が古い試料が対象の場合、より複雑な磁化成分で構成されていることが予想され、一般的な消磁手法では初生磁化成分を分離することは困難である。
本研究で対象としたのは、北海道苫前町古丹別地域に分布する上部白亜系蝦夷層群羽幌川層から採取した石灰質ノジュール試料であり、上部白亜系における重要な逆転境界(サントニアンーカンパニアン境界:SCB)の決定が期待されている。しかし、標準的な段階交流消磁では、高保磁力成分により交流消磁が効かず、また熱消磁では、ある温度帯(250-350°C付近)で熱変質による新たな磁性鉱物の晶出と磁化の獲得によりわずかな初生磁化が上書きされてしまう性質を持っている。そこで本研究では、Okada et al. (2017, EPS)で提唱された熱消磁+交流消磁を組み合わせたハイブリッド消磁を用いて、極性の抽出を試みた。
まず、各サイト1試料に対して18段階で熱消磁を行い、サイトごとの熱変質温度を確認した。熱変質温度は試料によって異なり、3軸IRM-熱消磁実験の結果から推定された含有磁性鉱物のうち、ゲーサイトや硫化鉄などの高保磁力成分が変質の原因であると考えられる。これらの高保磁力成分の影響で熱変質に加え、交流消磁が効かないと予測し、複数サイトからシスター試片を用いて熱変質温度直前の消磁段階温度(例えば350°Cで磁化の上昇が見られたサイトについては325°C)で加熱し、高保磁力磁性粒子を選択的に消磁した後に2G-SRMを用いて定置3軸段階交流消磁(12段階)を行った。この結果、交流磁場の上昇に伴い新たな磁化を獲得し、初生磁化がオーバーラップされ抽出不可になっていく様子が確認された。
交流消磁による不安定な挙動は多磁区 (Multidomain: MD) 粒子の関与が考えられる。初生磁化は安定した単磁区粒子(Single-domain: SD)に近い磁性鉱物が記録していると考えられる。一方でMD粒子は磁化記録媒体としては不安定であり、SD粒子が卓越する試料においては交流消磁初期段階で消磁され、その後の挙動は初生磁化成分の抽出には影響しない。しかし、安定成分がわずかであるような試料の場合、MD粒子の交流消磁に対する振る舞いが不安定な消磁結果の原因となると考えられる(Anai and Oda, 2022, JpGU )。そこで、試料の磁区構造をDay plotを用いて確認した。石灰質ノジュール試料はほぼPSD領域にプロットされるものの、MD領域に近い箇所に集中していた。このことから、本研究で取り扱う試料にはMD粒子が含まれており、交流消磁に影響を与える程度の含有率であることが予想されるため、MD粒子を抑制しながら初生磁化を抽出する手法を開発する必要があることが明らかとなった。