日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC32] Volatiles in the Earth - from Surface to Deep Mantle

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:清水 健二(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、Caracausi Antonio角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

17:15 〜 18:45

[SGC32-P01] 福徳岡ノ場漂着軽石中のメルト包有物のCO2濃度:爆発的噴火へのCO2の寄与

*萩原 雄貴1吉田 健太1渋谷 岳造1羽生 毅1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:福徳丘ノ場、軽石、爆発的噴火、二酸化炭素、メルト包有物

はじめに:爆発的噴火を引き起こす要因として,例えば,火道内でのマグマの速い上昇速度と低い脱ガス速度(e.g., Zhang, 1999),マグマ-水または氷の相互作用(e.g., Swanson et al., 2012),結晶量増加によるマグマ粘性の増加(e.g., Lavallée et al., 2007),高い揮発性成分量(e.g., Sable et al., 2006)など様々な機構が提案されている.特にCO2はマグマへの溶解度が低いため,その濃度はマグマの爆発ダイナミクスを支配する重要な要素の一つである(Le Gall and Pichavant, 2016).そこで本研究では,2021年に福徳岡ノ場で発生した爆発的噴火(e.g., Yoshida et al., 2023, 2022)へCO2が果たした役割に関する知見を得るため,軽石中の斑晶に含まれるメルト包有物中のCO2濃度を調査した.

試料:色彩の観点から,外見の異なる3つの軽石を選択した.軽石は琥珀色,灰色,黒色を呈し,それぞれ奄美大島,喜界島,沖縄本島で採取された.ただし,琥珀色の軽石は外見上明るい部分と暗い部分の大きく2つに分かれるため(図を参照),両者の境界で切断しそれぞれを区別した.斑晶は高電圧パルス選択性粉砕装置 (SELLFRAG)を用いてマトリックスから分離した.破砕後の試料から,かんらん石,単斜輝石,斜長石をハンドピックし鏡面研磨した.灰色の軽石中のかんらん石中のメルト包有物は均質である傾向があったが,それ以外の軽石中のメルト包有物はPost-entrapment crystallizationを被り不均質な場合が多かった.不均質なメルト包有物から正確に揮発性元素濃度を推定するために,それらのメルト包有物は加熱ステージにより約1300–1380°Cまで加熱し溶融させ,急冷することで均質化させた.Spinelは加熱過程で溶融しなかったため,メルト包有物は,glass±shrinkage bubble±spinelから構成される.

分析手法:メルト包有物中のCO2はガラスとshrinkage bubbleの両方に含まれるが,shrinkage bubble中のCO2は包有物全体のCO2の9割以上を占める場合もある(Feignon et al., 2022).そこで,メルト包有物中のCO2濃度を推定するためラマン分光分析装置 (RAMAN touch VIS-HP-MAST; Nanophoton)を用いてかんらん石,単斜輝石,斜長石中のメルト包有物中のshrinkage bubbleのCO2密度を測定した.波長532 nmのレーザーを50倍対物レンズを通して試料に集光した.試料表面におけるレーザー出力は21.7–74.8 mWであり,分析中のCO2はレーザー加熱により臨界温度以上となる(Hagiwara et al. 2021b).レーザー加熱によるCO2密度の過小評価の影響と研究室間の検量線のズレの影響を補正しCO2密度を推定した(Hagiwara et al., 2021b, 2021a, 2020).

結果と議論:ラマン分光分析では,比較的高いレーザー出力,明るい光学系,遅い読み出し速度,少ない読み出し回数で分析を行ったにもかかわらずCO2は検出限界以下であることが多かった.検出された場合でもCO2のピーク強度は微弱であり,分析も長時間 (6–27分)を要した.比較的高いレーザー出力で分析を行ったためレーザー加熱による見かけ上の密度の低下の影響を補正したが,非常に低密度であったため補正前後で密度にほとんど違いはなかった(Hagiwara et al., 2021a).CO2のラマンスペクトルから推定したCO2密度は軽石の種類や斑晶の種類を問わずほぼ一定で,有意な違いは認められなかった(図を参照).本研究で測定したshrinkage bubble中のCO2密度は平均して0.014 g/cm3程度であり,CO2が爆発的噴火に大きく貢献したと考えられる他の火山の噴火のそれ(e.g., 0.1–0.3 g/cm3; Sunset Crater (Arizona); Allison et al., 2021)と比較して1桁低い.従って,現状shrinkage bubble中のCO2密度のデータしか得られていないが,マグマ中の高いCO2濃度が福徳岡ノ場で生じた爆発的噴火の引き金になった可能性は低く,Yoshida et al. (2023)のナノライトの晶出が噴火の引き金になったという結論と矛盾しない.今後は,包有物内のCO2濃度をより正確に推定するため,μ-X線CTによるshrinkage bubbleやメルト包有物の体積測定と,SIMSによるガラス中のCO2濃度の測定を行う.また,比較的低いCO2濃度の原因を探るため,K/CO2比やBa/CO2比などを基に,脱ガスや結晶分化がCO2濃度へ与える影響を評価する.そのために,メルト包有物の主成分・微量元素組成の測定を行う予定である.

参考文献:Allison et al. (2021) Nat. Commun.; Feignon et al. (2022) Bull. Volcanol.; Hagiwara et al. (2020) J. Raman Spectrosc. ; Hagiwara et al. (2021a) J. Raman Spectrosc. ; Hagiwara et al. (2021b) Chem. Geol. ; Lavallée et al. (2007) Geology ; Le Gall and Pichavant (2016) J. Volcanol. Geotherm. Res. ; Sable et al. (2006) J. Volcanol. Geotherm. Res. ; Swanson et al (2012) J. Volcanol. Geotherm. Res. ; Yoshida et al. (2023) Sci. Rep. ; Yoshida et al. (2022) Island Arc; Zhang (1999) Nature.