17:15 〜 18:45
[SGC32-P05] 島根県東部に分布する山陰帯花崗岩類の固結温度・圧力の見積もり
キーワード:花崗岩、角閃石、角閃石単相地質温度圧力計、山陰帯
1.はじめに 西南日本内帯に分布する山陰帯花崗岩類は,磁鉄鉱系列に分類され (Ishihara,1977),さらに火山岩類に伴って産出することで特徴づけられる.山陰帯花崗岩類は岩石学的,地質学的,鉱物学的観点から広域的な研究が多くなされてきた (例えば,西田ほか, 2005).一方,山陰帯花崗岩類に特徴的に含まれる磁鉄鉱は, 花崗岩質マグマから結晶化したものではなく,マグマ活動末期からサブソリダスでの熱水流体による晶出鉱物であることが指摘さている (例えば,Kawakatsu and Yamaguchi, 1986).さらに,この熱水流体による作用により斜長石のソーシュライト化や黒雲母の緑泥石化,普通角閃石のアクチノ閃石化といったサブソリダス環境での主成分鉱物の変質が広く認められる (例えば,Czamanske et al., 1981; Kawakatsu and Yamaguchi, 1986; Takagi, 2010).このため,主成分鉱物の化学組成を用いた地質温度圧力計の適用による山陰帯花崗岩類の固結環境 (温度・圧力条件)の推定について,その報告は限られている.しかしながら,西南日本内帯の花崗岩質岩の固結環境は,白亜紀アジア大陸東縁での大陸地殻の成長過程を理解する上で重要な基礎情報である.そのため本研究では,山陰帯花崗岩類の固結環境を推定することを目的として,島根県木次~竹崎地域の花崗岩類について,詳細な岩石記載と角閃石単相地質温度圧力計を用いた温度圧力条件の解析をおこなった.
2.研究対象 本研究は,大東花崗閃緑岩,小木石英閃緑岩,阿毘縁花崗閃緑岩を対象に行った.これらの岩体については,詳細な野外調査や岩石記載, 化学組成分析に基づく火成活動についての議論が既になされている (薬師寺ほか,2012 ; 岩田ほか,2013 ; 野口ほか,2021).大東花崗閃緑岩や阿毘縁花崗閃緑岩は,石英閃緑岩の組成を持つ苦鉄質包有岩を普遍的に含んでおり,その有無や産出頻度により隣接する他岩体と区別される.またこれらの岩体は,メタアルミナスな花崗岩類を主体とする岩体である.さらに,これらの花崗岩類は角閃石を含んでおり,角閃石単相地質温度圧力計の適用が可能である.
3.研究手法 各岩体から試料を採集し,薄片を作成して岩石組織の観察をおこなった.固結温度・圧力の検討は,Redolfi and Renzulli (2012) による角閃石単相圧力計,Putirka (2016) による角閃石単相温度計を用いた.角閃石の組成分析は愛媛大学理学部設置のSEM-EDS を用いた.
4.結果・考察 それぞれの岩体において,角閃石は内部の褐色部とそれを覆う緑色部に分けられた.褐色部は累帯構造やパッチ状組織を呈している.褐色部は包有物をほとんど含まないのに対し,褐色部の縁辺や緑色部は磁鉄鉱を包有する.また,化学組成については褐色部から緑色部にかけて [A](Na +Ca),#Fe,AlTが減少する.さらに角閃石はHawthorne et al.(2012) による分類では、主にMagnesio-hornblende に分類される.本研究では,角閃石の褐色部を熱水流体による変質作用を受けずにマグマから晶出した際の組成を保持しているものと考え,褐色部の化学組成を用いて角閃石単相地質温度・圧力計を適用した.その結果,大東花崗閃緑岩については746 ± 15 ℃と78 ± 1 MPa (n = 2, 1 σ),小木石英閃緑岩については779 ± 16 ℃と123 ± 18 MPa (n = 6, 1 σ),阿毘縁花崗閃緑岩については806 ± 7 ℃と161 ± 3 MPa (n = 2, 1 σ)という温度圧力 (温度圧力計の誤差はそれぞれ± 59 ℃と± 85 MPa)が得られた.これらの温度圧力見積もり結果はH2Oに飽和した花崗岩質マグマ,花崗閃緑岩質マグマ,トーナル岩質マグマのソリダス曲線 (Piwinskii and Wylli,1970)や,ジルコン飽和温度計 (Watson and Harrison,1983) により計算された温度と誤差範囲で一致している.さらに大東岩体については,溶結凝灰岩に貫入している産状が認められ(野口ほか,2021),地殻浅所に定置した岩体と考えられる.本研究による大東岩体の見積もり結果 78 ± 1 MPa は,この野外産状と調和的である.以上を踏まえ,本研究で得られた温度圧力は,各岩体の固結温度・圧力条件を示すものと考えられる.さらに,上部大陸地殻の密度を2.65 g/cm3 と仮定すると,それぞれの岩体の固結深度は大東花崗閃緑岩では約3 km 小木石英閃緑岩では約5 km,阿毘縁花崗閃緑岩では約6 km に相当する.
2.研究対象 本研究は,大東花崗閃緑岩,小木石英閃緑岩,阿毘縁花崗閃緑岩を対象に行った.これらの岩体については,詳細な野外調査や岩石記載, 化学組成分析に基づく火成活動についての議論が既になされている (薬師寺ほか,2012 ; 岩田ほか,2013 ; 野口ほか,2021).大東花崗閃緑岩や阿毘縁花崗閃緑岩は,石英閃緑岩の組成を持つ苦鉄質包有岩を普遍的に含んでおり,その有無や産出頻度により隣接する他岩体と区別される.またこれらの岩体は,メタアルミナスな花崗岩類を主体とする岩体である.さらに,これらの花崗岩類は角閃石を含んでおり,角閃石単相地質温度圧力計の適用が可能である.
3.研究手法 各岩体から試料を採集し,薄片を作成して岩石組織の観察をおこなった.固結温度・圧力の検討は,Redolfi and Renzulli (2012) による角閃石単相圧力計,Putirka (2016) による角閃石単相温度計を用いた.角閃石の組成分析は愛媛大学理学部設置のSEM-EDS を用いた.
4.結果・考察 それぞれの岩体において,角閃石は内部の褐色部とそれを覆う緑色部に分けられた.褐色部は累帯構造やパッチ状組織を呈している.褐色部は包有物をほとんど含まないのに対し,褐色部の縁辺や緑色部は磁鉄鉱を包有する.また,化学組成については褐色部から緑色部にかけて [A](Na +Ca),#Fe,AlTが減少する.さらに角閃石はHawthorne et al.(2012) による分類では、主にMagnesio-hornblende に分類される.本研究では,角閃石の褐色部を熱水流体による変質作用を受けずにマグマから晶出した際の組成を保持しているものと考え,褐色部の化学組成を用いて角閃石単相地質温度・圧力計を適用した.その結果,大東花崗閃緑岩については746 ± 15 ℃と78 ± 1 MPa (n = 2, 1 σ),小木石英閃緑岩については779 ± 16 ℃と123 ± 18 MPa (n = 6, 1 σ),阿毘縁花崗閃緑岩については806 ± 7 ℃と161 ± 3 MPa (n = 2, 1 σ)という温度圧力 (温度圧力計の誤差はそれぞれ± 59 ℃と± 85 MPa)が得られた.これらの温度圧力見積もり結果はH2Oに飽和した花崗岩質マグマ,花崗閃緑岩質マグマ,トーナル岩質マグマのソリダス曲線 (Piwinskii and Wylli,1970)や,ジルコン飽和温度計 (Watson and Harrison,1983) により計算された温度と誤差範囲で一致している.さらに大東岩体については,溶結凝灰岩に貫入している産状が認められ(野口ほか,2021),地殻浅所に定置した岩体と考えられる.本研究による大東岩体の見積もり結果 78 ± 1 MPa は,この野外産状と調和的である.以上を踏まえ,本研究で得られた温度圧力は,各岩体の固結温度・圧力条件を示すものと考えられる.さらに,上部大陸地殻の密度を2.65 g/cm3 と仮定すると,それぞれの岩体の固結深度は大東花崗閃緑岩では約3 km 小木石英閃緑岩では約5 km,阿毘縁花崗閃緑岩では約6 km に相当する.