09:30 〜 09:45
[SGC33-03] 北海道-東北-伊豆地方第四紀火山岩のMo-Sr-Nd-Pb同位体組成
キーワード：東北日本弧、伊豆諸島、Mo同位体組成、沈み込み帯
海洋プレートの沈み込みは、地球表層の岩石・堆積物・海水などをマントル中へ供給する主要なプロセスであり、地球全体の元素循環を推定する上で重要である。更に、沈み込むスラブからの脱水は、火山活動・地震活動などを誘発し、表層環境に重要な影響を与えている [e.g., 1-3] 。沈み込むスラブからの流体発生メカニズムは様々なモデルが提唱されており、未だ議論の的である。中でも、背弧（RA）領域における流体発生と、流体が関与するマグマ形成について不明瞭な点が多い。本研究では、沈み込むスラブからの流体移動のトレーサーとして近年用いられているMo同位体比（δ98/95Mo = （98Mo/95Mosample / 98Mo/95MoNIST3134 – 1) × 1000）に着目し、北海道、東北、伊豆諸島の様々な沈み込み深度（DWB: Depth of Wadati-Benioff Zone）をもつ火山の玄武岩質溶岩に対し、ダブルスパイク法と表面電離型質量分析計（TIMS）を組み合わせた分析を行った。また、マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析計（MC-ICP-MS）を用いてSr-Nd-Pb同位体測定も行い、DWBの変化に伴う沈み込み帯火山におけるスラブ由来成分の変動を比較した。
伊豆諸島のδ98/95Mo値はDWBの増加に従い減少し、87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比との間に正の相関を示し、143Nd/144Nd比とも正の相関を示した [e.g.,4]。北海道の火山フロント（VF）に位置する有珠山・十勝岳・雌阿寒岳のδ98/95Mo値(δ98/95Mo = 0.20 to 0.35‰) に対してRAの利尻島の試料は低い値 (δ98/95Mo = -0.16 to -0.14‰) を示し、87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比と正の相関、143Nd/144Nd比と負の相関を示した。一方、東北地方のVFは伊豆諸島や北海道のVF試料より高いδ98/95Mo値(δ98/95Mo = 0.26 to 0.67‰)を示した。更に、東北地方では、RA火山岩においても伊豆諸島や北海道のRA試料より高いδ98/95Mo値 (δ98/95Mo = 0.06 to 0.52‰) を示し、伊豆諸島や北海道が示すようなVF－RAの明瞭な減少傾向は認められなかった [e.g., 5]。
VFからRAにかけた東北・北海道火山岩中の87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比の減少は、DWBの増加に伴う水性流体の寄与の減少を、143Nd/144Nd比の増加はマグマに対する堆積物成分、マントル成分などの増加を示唆する [e.g., 6, 7]。そのため、北海道におけるMo同位体比の変動も、RAにかけた水性流体成分の減少やスラブのメルト成分の増加に伴って変動したと考えられる。伊豆諸島においても、δ98/95Mo値と87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比の傾向から、RAにかけた水性流体成分の減少やスラブのメルト成分の増加に伴って変動したと考えられる。加えて、伊豆諸島におけるδ98/95Mo値と143Nd/144Nd比の正の相関から、スラブ由来流体による過去のマントル交代作用が引き起こしたウェッジマントルの同位体不均質性も反映している可能性がある [e.g., 4,8]。
東北地方ではDWBの変化に伴うδ98/95Mo値の明瞭な傾向は見られなかった。可能性の一つとして、東北地方のRAではその他のRAと比較して高い208Pb/204Pb比をもつ試料が多いことが挙げられる。先行研究ではPbとMoは水性流体中の挙動の類似性が示唆されていることから[9]、東北地方のVFに類似したδ98/95Mo値を有するRAの試料では、Pb, Mo同位体比が同時に上昇するイベントを経験したか、あるいは推定されたマントルよりも二つのδ98/95Mo値及び208Pb/204Pb比の高いソースから形成された可能性を示す。
Reference [1] Bott and Dean, 1973, Nature, [2] Elliott et al., 1997, JGR, [3] Hawkesworth et al., 1993, Rev. EPS, [4] Villalobos-Orchard et al., 2020, GCA, [5] Li et al., 2021, Nature, [6] Shibata and Nakamura, 1997, JGR, [7] Kimura and Yoshida, 2006, J. Petrol., [8] Tollstrup et al., 2010, G3, [9] Freymuth et al., 2015, EPSL
伊豆諸島のδ98/95Mo値はDWBの増加に従い減少し、87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比との間に正の相関を示し、143Nd/144Nd比とも正の相関を示した [e.g.,4]。北海道の火山フロント（VF）に位置する有珠山・十勝岳・雌阿寒岳のδ98/95Mo値(δ98/95Mo = 0.20 to 0.35‰) に対してRAの利尻島の試料は低い値 (δ98/95Mo = -0.16 to -0.14‰) を示し、87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比と正の相関、143Nd/144Nd比と負の相関を示した。一方、東北地方のVFは伊豆諸島や北海道のVF試料より高いδ98/95Mo値(δ98/95Mo = 0.26 to 0.67‰)を示した。更に、東北地方では、RA火山岩においても伊豆諸島や北海道のRA試料より高いδ98/95Mo値 (δ98/95Mo = 0.06 to 0.52‰) を示し、伊豆諸島や北海道が示すようなVF－RAの明瞭な減少傾向は認められなかった [e.g., 5]。
VFからRAにかけた東北・北海道火山岩中の87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比の減少は、DWBの増加に伴う水性流体の寄与の減少を、143Nd/144Nd比の増加はマグマに対する堆積物成分、マントル成分などの増加を示唆する [e.g., 6, 7]。そのため、北海道におけるMo同位体比の変動も、RAにかけた水性流体成分の減少やスラブのメルト成分の増加に伴って変動したと考えられる。伊豆諸島においても、δ98/95Mo値と87Sr/86Sr, 208Pb/204Pb比の傾向から、RAにかけた水性流体成分の減少やスラブのメルト成分の増加に伴って変動したと考えられる。加えて、伊豆諸島におけるδ98/95Mo値と143Nd/144Nd比の正の相関から、スラブ由来流体による過去のマントル交代作用が引き起こしたウェッジマントルの同位体不均質性も反映している可能性がある [e.g., 4,8]。
東北地方ではDWBの変化に伴うδ98/95Mo値の明瞭な傾向は見られなかった。可能性の一つとして、東北地方のRAではその他のRAと比較して高い208Pb/204Pb比をもつ試料が多いことが挙げられる。先行研究ではPbとMoは水性流体中の挙動の類似性が示唆されていることから[9]、東北地方のVFに類似したδ98/95Mo値を有するRAの試料では、Pb, Mo同位体比が同時に上昇するイベントを経験したか、あるいは推定されたマントルよりも二つのδ98/95Mo値及び208Pb/204Pb比の高いソースから形成された可能性を示す。
Reference [1] Bott and Dean, 1973, Nature, [2] Elliott et al., 1997, JGR, [3] Hawkesworth et al., 1993, Rev. EPS, [4] Villalobos-Orchard et al., 2020, GCA, [5] Li et al., 2021, Nature, [6] Shibata and Nakamura, 1997, JGR, [7] Kimura and Yoshida, 2006, J. Petrol., [8] Tollstrup et al., 2010, G3, [9] Freymuth et al., 2015, EPSL