日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2024年5月30日(木) 15:30 〜 16:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、座長:古屋 正人(北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)

16:30 〜 16:45

[SGD01-10] ITRF2020のVLBIスケールドリフトについて

*石垣 真史1,2、Le Bail Karine2、Mouyen Maxime2、Haas Rüdiger2、Nilsson Tobias3 (1.国土地理院、2.チャルマース工科大学オンサラ観測所、3.スウェーデン国土測量庁)

キーワード:ITRF2020、VLBI

背景
 国際地球基準座標系(ITRF)は、VLBI・SLR・GNSSおよびDORISの4つの宇宙測地技術を統合して構築される世界測地系である。ITRFにおいては、平行移動ベクトル・スケールパラメータ・回転行列を含む変換パラメータおよび観測局の局位置・速度等のパラメータが推定されている。最新のITRFであるITRF2020では、2013.75年以降、VLBIデータから得られたスケールパラメータに0から正の乖離が見られること(スケールドリフト)が報告されている。スケールドリフトの原因についてはVLBIコミュニティ内で多く議論が交わされているが、明確な説明は見つかっていない。
 本研究では、ITRF2020構築時と同じ手法を用いて、スケールドリフトの原因について調査を行う。

手法
 ITRF2020で使用された観測局位置の非連続点・速度変化のモデルおよび余効変動(PSD)モデルについて、GNSSとVLBIそれぞれで用いられたモデルを比較し、その違いがスケールパラメータへ与える影響を推定する。解析には、ITRF構築のため開発されたCATREFを用い、ITRF2020で用いられたVLBIのSINEXデータを使用する。また、スケールドリフトの要因の一つとして考えられているNy-Ålesund局のデータについて、CryoSatデータから得られた氷河融解モデルと比較を行う。

結果
 ITRF2020のGNSSデータに用いられている非連続点・速度変化のモデルをVLBIの解析に適用した。その結果、GNSSのみに適用されていたNy-Ålesundの速度変化をVLBIの解析にも適用することで、スケールドリフトが大きく緩和することがわかった。その他の観測局のモデルについては、スケールパラメータへの影響はほぼ見られなかった。(表1)
 次に、GNSSの非連続点・速度変化のモデルに記載されていない観測局の影響がないか調査したところ、WettzellのGNSS局について、2016年から上下成分の速度の変化が認められた。Ny-ÅlesundとWettzellの影響を加算すると、両局のモデルがスケールドリフトに大きく寄与していることがわかった。(表2)
 最後に、東北地方太平洋沖地震の影響を受けている地域におけるPSDモデルの影響を推定した。PSDモデルが適用されていない石岡局とセジョン局について、つくば局のPSDモデルを適用しスケールパラメータに変化が生じるかテストを行った。両局の上下成分のフィッティングには若干の向上が見られた一方、スケールパラメータには影響を与えなかった。
 結論として、VLBIのスケールドリフトはNy-ÅlesundとWettzellの速度変化によっておおむね説明が可能である。Ny-Ålesundの速度変化は北極地域の氷河融解によって引き起こされていることが報告されている(Kierulf et al. 2022)。Wettzellの速度変化については明確な原因が発見されていないが、該当地域で局所的に速度変化が起きている可能性が示唆される。その他のスケールドリフトの要因として、個々の観測局の機器交換等の事象も寄与している可能性があることが報告されている(Le Bail et al. IVS General Meeting 2024 in prep.)。

Reference
Kierulf, H.P., Jack, K., Boy, J., Geyman, E.C., Mémin A., Omang, O.C.D., Steffen, H., and Steffen, R., 2022, Geophysical Journal International, 231, 1518-1534