13:45 〜 14:00
[SGD02-01] 数値計算シミュレーションによるGNSS-Aベイズモデリングの性能検証
キーワード:海底地殻変動観測、GNSS-A、ベイズ統計、MCMC
GNSS-音響測距結合方式(GNSS-A)による海底測位は、海底に設置した音響トランスポンダーのグローバル座標系における位置座標をcm精度で測定するものである。この測位技術は沈み込み帯において、プレート境界固着域の直上となる海底での精密な地殻変動を捉えることを可能にし、プレート境界における地震の理解に重要な役割を果たしている。
GNSS-AはGNSS測位と海中の音響測位を組み合わせる技術のため、両者及び両者の結合部分に関する多種多様な誤差の影響を受ける。その中でも海中音速場の時空間変化が最大の誤差要因と考えられており、その適切なパラメータ化が高精度化の重要な鍵となっている。歴史的にも初期の時間変化のみを考慮していた手法 (e.g. Fujita et al., 2006) に対して、現在は空間変化も取り入れることで測位解の精度が向上してきた (e.g. Watanabe et al., 2020) 。測位解析で用いているベイズ統計による推測手法では、誤差によるデータのばらつきをモデル化し、データから可能な限り意味のある情報を抜き出すことが重要である。現在、我々のグループが解析で使用しているソフトウェアGARPOS (Watanabe et al., 2020) では、音波の往復走時の観測値が理論値の周りに正規分布しているというモデル(尤度関数)とデータへの過剰適合を防ぐためのパラメータの拘束条件(事前分布)から得られる事後分布の最大化によって最適パラメータを求める構造となっている。往復走時の理論値は、単純な関数で時空間変動を近似した音速場を用いてを計算している。この尤度関数の設定は、音速場変動等の推定パラメータで表現される要因以外の誤差が真値の周辺に正規分布として偶発的に発生するものとして扱うことを意味する。しかしながら、実際にはパラメータ化出来ていない誤差要因によって仮定した正規分布から系統的に外れたデータが、推定パラメータの過剰適合等の悪影響を与えているケースが散見される。こうした影響は、事前分布によるパラメータの拘束や分散共分散行列の非対角成分の導入などによってある程度軽減可能であるものの、その本質的な原因を調査することが重要である。こうした原因の一つとして音響機器のハードウェア的な特性からくる系統的な誤差の影響があり、現在音響機器の実験に基づく補正手法を検討中である(永江他, 2024 JpGU)。一方で、設定した関数では近似できていない複雑な音速場の影響については、真の音速場が不可知であるため適切な評価をすることは困難である。
実際の観測データを用いた解析では、設定した統計モデルの妥当性を検証するには、過去の多数のデータの再現性等による経験的な評価に頼らざるを得ない。そこで、人為的に設定した理想的な数値モデルによるシミュレーションが有効な手段となる(中村他, 2023地震学会)。また、GARPOSではいくつかの仮定により事後分布が正規分布となるようにしたうえでパラメータの点推定を行っているが、モデルの性質を詳細に調べるためには事後分布全体を見ることが有効である(Watanabe et al., 2023)。ここでは事後分布からのサンプリングにMCMC法を採用し、PythonのMCMC用パッケージであるPyMC (ver.5系)を用いた。また、積分計算を必要としないMCMC法は、モデルの確率分布関数が指数型分布族のような単純な形で書き表せない場合でも有効であるため、より複雑な海洋場や誤差のモデルの検証にも有用である。
本発表では、現実の音速場を模した状況で計算した往復走時に誤差を加算した仮想データを作成し、関数近似による音速場推定の性能について検証した結果を報告する。また、誤差要因として、GNSS測位におけるランダムウォーク的な誤差や音波の波数読み間違いによる離散的な誤差などの正規分布で表現できない誤差がパラメータ推定に与える影響についても調査を行う。
GNSS-AはGNSS測位と海中の音響測位を組み合わせる技術のため、両者及び両者の結合部分に関する多種多様な誤差の影響を受ける。その中でも海中音速場の時空間変化が最大の誤差要因と考えられており、その適切なパラメータ化が高精度化の重要な鍵となっている。歴史的にも初期の時間変化のみを考慮していた手法 (e.g. Fujita et al., 2006) に対して、現在は空間変化も取り入れることで測位解の精度が向上してきた (e.g. Watanabe et al., 2020) 。測位解析で用いているベイズ統計による推測手法では、誤差によるデータのばらつきをモデル化し、データから可能な限り意味のある情報を抜き出すことが重要である。現在、我々のグループが解析で使用しているソフトウェアGARPOS (Watanabe et al., 2020) では、音波の往復走時の観測値が理論値の周りに正規分布しているというモデル(尤度関数)とデータへの過剰適合を防ぐためのパラメータの拘束条件(事前分布)から得られる事後分布の最大化によって最適パラメータを求める構造となっている。往復走時の理論値は、単純な関数で時空間変動を近似した音速場を用いてを計算している。この尤度関数の設定は、音速場変動等の推定パラメータで表現される要因以外の誤差が真値の周辺に正規分布として偶発的に発生するものとして扱うことを意味する。しかしながら、実際にはパラメータ化出来ていない誤差要因によって仮定した正規分布から系統的に外れたデータが、推定パラメータの過剰適合等の悪影響を与えているケースが散見される。こうした影響は、事前分布によるパラメータの拘束や分散共分散行列の非対角成分の導入などによってある程度軽減可能であるものの、その本質的な原因を調査することが重要である。こうした原因の一つとして音響機器のハードウェア的な特性からくる系統的な誤差の影響があり、現在音響機器の実験に基づく補正手法を検討中である(永江他, 2024 JpGU)。一方で、設定した関数では近似できていない複雑な音速場の影響については、真の音速場が不可知であるため適切な評価をすることは困難である。
実際の観測データを用いた解析では、設定した統計モデルの妥当性を検証するには、過去の多数のデータの再現性等による経験的な評価に頼らざるを得ない。そこで、人為的に設定した理想的な数値モデルによるシミュレーションが有効な手段となる(中村他, 2023地震学会)。また、GARPOSではいくつかの仮定により事後分布が正規分布となるようにしたうえでパラメータの点推定を行っているが、モデルの性質を詳細に調べるためには事後分布全体を見ることが有効である(Watanabe et al., 2023)。ここでは事後分布からのサンプリングにMCMC法を採用し、PythonのMCMC用パッケージであるPyMC (ver.5系)を用いた。また、積分計算を必要としないMCMC法は、モデルの確率分布関数が指数型分布族のような単純な形で書き表せない場合でも有効であるため、より複雑な海洋場や誤差のモデルの検証にも有用である。
本発表では、現実の音速場を模した状況で計算した往復走時に誤差を加算した仮想データを作成し、関数近似による音速場推定の性能について検証した結果を報告する。また、誤差要因として、GNSS測位におけるランダムウォーク的な誤差や音波の波数読み間違いによる離散的な誤差などの正規分布で表現できない誤差がパラメータ推定に与える影響についても調査を行う。