日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL17] 地球年代学・同位体地球科学

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、渡邊 裕美子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

09:00 〜 09:23

[SGL17-01] 酸素同位体比年輪年代法の到達点と課題

★招待講演

*中塚 武1 (1.名古屋大学)

キーワード:年輪年代学、酸素同位体比、セルロース、気候変動

年輪年代法は最も精度が高い年代測定法の一つであり、年輪数が多い針葉樹材に対して広く使われてきたが、種類の多い広葉樹材への応用には限界があった。酸素同位体比年輪年代法は、年代決定の標準年輪曲線に年輪幅の代わりに年輪の中のセルロースの酸素同位体比を用いる方法であり、年輪幅よりも樹木個体間での経年変動の相関性が高いため、年輪数が30-50年程度の木材でも年代が決定できて、広葉樹を含む全ての樹種に適応可能である。それゆえ、セルロース酸素同位体比の標準年輪曲線の構築の必要性が、日本の多くの関係者に理解され、最近10年ほどの間に、日本では過去五千年に及ぶ、その標準年輪曲線が構築された。
酸素同位体比年輪年代法の樹種を越えた広い適用力の背景には、年輪セルロース酸素同位体比の変動メカニズムの単純さがある。セルロースは葉内で生成されるグルコースの高分子であり、その酸素同位体比は葉内水の酸素同位体比の変動を記録している。葉内水の酸素同位体比は、降水同位体比と相対湿度という2つの気象学的因子の一次関数で表されるため、全ての樹木の年輪セルロース酸素同位体比が、広域で同調する気候の変動を同じように反映する。
年輪セルロース酸素同位体比は、特にアジアモンスーン地域で、過去数百年~数千年間の夏の降水量や気温の変動の復元に広く用いられ、それを木材の年代決定に用いる酸素同位体比年輪年代法の研究が、同時に進行している。本講演では、酸素同位体比年輪年代法の「2つの目的」である「気候復元」と「年代決定」の現時点での到達点と課題について、詳しく紹介する。