日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL17] 地球年代学・同位体地球科学

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、渡邊 裕美子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

09:23 〜 09:38

[SGL17-02] 年代測定における年代の誤差とは?

*兼岡 一郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:年代測定、年代誤差、測定誤差、不確定さ

年代測定によって得られた年代値には誤差がつけられているが、その誤差の意味については必ずしもきちんと定義されているわけでもなく、測定手法によって異なる。年代誤差を考慮せずに年代数値のみを基に詳細な年代に関する議論がされたり、年代数値を引用する場合にその誤差が無視されたまま引用されて詳細な年代値の議論の際に混乱を招いたりする。このようなことを避けるためには、年代数値を利用する研究者は年代数値につけられた誤差の意味をきちんと把握しておくことが重要である。
 通常年代測定値につけられている誤差はそれぞれの年代値を算出するために必要な各種のデータを求める際に生じる測定誤差であって、それ以外の要素によってもたらされる誤差は含まれていない。測定すべきデータは手法ごとに異なり、各データにつけられたそれぞれの測定値の誤差を誤差の伝搬側を用いて年代数値としての誤差を算出したものが年代測定誤差としてあげられることが多い。
 例えばK-Ar年代を算出するためには試料のおよび放射性起源40Ar*の量が必要であるが、それらを求めるためには試料のk量およびAr同位体比、トレーサーとして加える38Ar量などが必要となり、それぞれの測定量には測定誤差が含まれている。これらの測定誤差を誤差伝搬則にしたがって計算されたのが年代値としての測定誤差になる。この際、40K,40Ar*の量を算出するためには、一般的に用いられている現在の試料の、40K/K、大気Arの36Ar/40Arなどを既知として、それらの誤差は考慮せずに用いている。しかしこれらの値も状況によっては変化することが知られており、得られたK-Ar年代値の不確定さをきちんと吟味する際には、こうした要素も考慮する必要がある。
 一方、14C年代測定法では、生物などが生存中はその際の大気と同じ14C/Cを維持しているが、その死後においては大気との交換反応が途絶えて、14C/Cは14Cが時間とともに壊変することを反映して減少することを利用している。この際、主要なデータは14C/Cであるが,14Cは放射線測定器などによる計数測定で求められることが多く、その際の測定誤差は測定数Nの平方根として採用されるのが一般的である。この方法では、生物体が生存していた時期と現在の大気中の14C/Cが同じとして計算されるが、実際には14C/Cの値は太陽活動も反映することが明らかになっている。そのため14C法ではこれらの影響を補正するために較生曲線を用いて較生することが必要であるが、較生曲線自体が誤差を含んでおり、実際の14C年代としては、14C/Cの測定誤差と較生曲線からの誤差を組み合わせて用いられている。
 こうした例からも見られるように個々の年代測定法においては。それらに固有の年代測定値に誤差をもたらす要素をとりいれるようになっているが、実際にはその測定値には表示されていない年代の不確定さをもたらす要素も少なくない。
 各種の年代測定法にによる年代測定値が信頼性のある値として扱うことのできるのは、用いた試料が年代測定が成立する前提条件を満たした場合のみであるので、あらかじめ前提条件を満たさない可能性のある試料を避けるとともに、得られた結果を慎重に吟味することも重要である。また現在用いられている放射性同位体の壊変定数も絶対的なものではなく、変更される余地があることにも留意しておく必要があろう。