日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL17] 地球年代学・同位体地球科学

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、渡邊 裕美子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

09:38 〜 09:53

[SGL17-03] 南海トラフ掘削試料のヘリウム同位体比

*佐野 有司1、張 茂亮2土岐 知弘3、福地 里菜4鹿児島 渉悟5高畑 直人6朴 進午6、山口 飛鳥6 (1.高知大学海洋コア国際研究所、2.天津大学地球システム科学研究科、3.琉球大学理学部、4.鳴門教育大学、5.富山大学理学部、6.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:ヘリウム同位体、南海トラフ、掘削試料

環太平洋の沈み込み帯では、海溝に対して垂直に交差する軸上で特異的なヘリウム同位体比(3He/4He)の分布が得られている[1]。島弧の代表として東北日本の火山フロントより海溝側の前弧では、1Ra(Raは大気の同位体比1.4×10-6)より低い地殻起源の値を示す。一方、火山弧側では最大で8Raに達するマントル起源の値を示す。このようなステップ状の変動は、西南日本の中国・四国地方でも見られるが、前弧側で同位体比は3Raに達する[2]。これらの研究は、陸上の温泉、地下水、天然ガスなどを採取・測定して得られたものである。本研究では、南海トラフの前弧海盆下の付加体を掘削した岩石試料を分析することで、ヘリウム同位体比の分布を前弧の海側まで拡大することを試みた。
分析に供した試料は、IODP第348次航海により紀伊半島沖合の熊野海盆南東縁辺に位置するSite C0002で採取された堆積岩のカッティングスである[3]。約2gの試料を切り取り純水で超音波洗浄した後に、乾燥して真空ボールミルにセットした。超高真空下で試料を破砕し、気体成分を抽出した。得られた気体から低温の活性炭トラップと高温のチタンゲッターでヘリウムとネオンを精製した。四重極質量分析計で4He/20Ne比を測定した後、極低温のトラップでネオンを分離してからヘリウムを希ガス用質量分析計に導入し、3He/4He比を測定した。得られたデータは大気標準ヘリウムに対して規格化した。粉砕した粉状の試料の一部については、真空加熱炉により気体成分を抽出し、3He/4He比を測定した。
海底下約1000mから2900mまで、付加体中のほぼ100mおきの深度から採取されたカッティングスの合計21試料の4He濃度、3He/4He比、4He/20Ne比を真空破砕法で測定した。3He/4He比は0.90Raから3.36Raまで、4He/20Ne比は3.8から66まで変動した。これらの値はライザー掘削時に用いた泥水に含まれていた希ガス組成[4]とおおむね一致した。大気ヘリウムを補正した3He/4He比を見ると、深度1000mから1400mまで上昇し、その後は深度とともに低下する傾向にある。一方、粉末試料を加熱して得た3He/4He比は0.08Raから0.26Raと変動し、地殻起源の値であった。従って、真空破砕法で観測された3Raの値は海底の堆積物に含まれる宇宙塵起源のヘリウムによるものでなく、マントル起源のヘリウムの寄与を示す。
文献[1] Sano & Wakita, 1985, JGR90, 8729-8741. [2] Dogan et al., 2006 Chem. Geol. 233, 235-248. [3] Fukuchi et al., 2017, G-Cubed18, 3185-3196. [4] Wiersberg et al., 2018, PEPS5, 79.