日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL18] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:羽地 俊樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:45

[SGL18-P05] 丹波帯の砥石型珪質粘土岩に発達する石英脈から推定された高駆動流体圧比

*石田 昂汰朗1佐藤 活志1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:沈み込み帯、プレート境界、底付け付加、間隙流体圧、丹波帯

沈み込み帯のプレート境界断層近傍では一般的に間隙流体圧が高いと考えられており, その高い間隙流体圧はプレート境界型地震の発生に大きな影響を与えているとされている. (例えば, Kimura et al., 2012). また, 付加体成長期の沈み込み帯では遠洋性堆積物や海洋地殻上部の玄武岩類が底付け付加されることが知られているが, この際プレート境界断層近傍に高い間隙流体圧を発生させる原因はよく分かっていない.
 丹波帯のI型地層群では, 遠洋性の砥石型珪質粘土岩の層準にプレート境界断層が発達していたとされており, 砥石型珪質粘土岩はチャート等の他の遠洋性岩石と共に底付け付加されたと考えられている (例えば, 木村, 2000). 砥石型珪質粘土岩の層準にプレート境界断層が発達しやすかったのは, 上位に堆積していたチャートが不透水層として機能し, 高間隙流体圧を発生させていたからではないかという仮説がある (Yamaguchi et al., 2016). 本研究では, 砥石型珪質粘土岩の層準に高間隙流体圧が発生していたのかどうかを検証するため, 砥石型珪質粘土岩の基底断層近傍に発達する鉱物脈の産状の調査と, それらの方位データを基にした古応力解析と駆動流体圧比 p*=(p-σ3)/(σ13) の推定を行った. 調査地域は, 海洋プレート層序を保持したスラストシートが繰り返し分布することが木村 (2000) によって報告されている, 京都市右京区京北細野町の芦見谷とした.
調査の結果, 多くの場合砥石型珪質粘土岩の基底断層近傍に石英脈が集中的に発達していることが分かった. 続いて, 石英脈群の発達が確認できた露頭のうち, 4箇所においてそれらの方位データに混合ビンガム分布をフィッティング (Yamaji and Sato, 2011) することで古応力解析を行った. 解析の結果, いずれの露頭においても面構造と概ね平行なσ1軸を持つ応力が検出された. また, 応力比 Φ=(σ23)/(σ13) は0.20~0.40と低かった. 更に, 石英脈群形成後の後生的な変形を補正したところ, 検出された応力はいずれも東西から西北西-東南東方向のほぼ水平なσ1軸を持ち, σ2軸またはσ3軸が鉛直に近い応力となった. これらのσ1軸の方向は, 後期ジュラ紀のプレート収斂方向 (Liu et al., 2017) と概ね一致する. このことは, 石英脈群が底付け付加の際に形成されたものであることを支持している.
 続いて, 検出された応力を基に駆動流体圧比の代表値であるDPIを推定した. DPIは, 最適化されたビンガム分布の95パーセンタイル点に対応する法線応力を流体圧として算出した駆動流体圧比である (Faye et al., 2018). 推定されたDPIは, 0.60~0.95という値を示した. 後生的な変形を補正した後の応力はいずれもσ2軸またはσ3軸が鉛直に近く, 応力比が0.20~0.40であったことを踏まえると, 石英脈群形成時の流体圧は上載岩圧σzzを上回っていたと推定される. すなわち, 流体圧比p/σzzが1を上回る高い間隙流体圧のもとで石英脈群は形成されたと考えられる. また, 推定された駆動流体圧比は四万十帯のプレート境界断層近傍の鉱物脈群から推定されたもの (Hosokawa and Hashimoto, 2022) を上回っていた. 四万十帯では丹波帯と比べてプレート境界断層の上位に堆積していたチャートが薄かったと推定される. 丹波帯と四万十帯のプレート境界断層近傍の鉱物脈群から推定された駆動流体圧比の差は, チャートが不透水層として機能していたことを示唆している.