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[SGL19-04] 根室層群におけるオスミウム同位体比記録を用いた白亜紀-古第三紀境界の層序検討

キーワード:K-Pg境界、オスミウム同位体比、根室層群
約6600万年前の白亜紀―古第三紀境界(K-Pg境界)は、非鳥類型恐竜を含む生物種の最大75%が絶滅したことで知られている。イリジウム(Ir)のような白金族元素の明確な濃度のピークは、世界中のK-Pg境界の粘土層で観察されており、大量絶滅の引き金となった可能性のある大規模な隕石衝突の最も重要な証拠の一つである。オスミウム同位体比(187Os/188Os)の急激な低下も、地球外衝突の検出に利用することができる。
日本では、北海道の根室層群において、白亜紀上部~古第三紀下部の堆積物が報告されている(Saito et al., 1986)が、このセクションではIr濃度の明瞭なピークは確認されなかった。近年、Saito et al.(1986) の検討したセクションの近傍の根室層群・川流布層において、微化石の詳細な検討や、凝灰岩の放射年代測定(ジルコンU-Pb)に基づき、白亜紀上部~古第三紀を含む堆積層が同定された。本研究では、白金族元素濃度と187Os/188Os比を測定し、K-Pg境界の層序的位置の特定を試みた。川流布川北支流南枝沢において堆積岩を採集し、長い時間幅の低解像度分析と、K-Pg境界と推定される層序における高解像度分析を行った。
白亜紀上部と推定される区間における187Os/188Os比はおよそ0.6を示し、古第三紀下部と推定される区間ではおよそ0.4を示した。これは、遠洋性堆積岩に記録された白亜紀と古第三紀の海水の値とそれぞれ一致する(例えば、Ravizza and Peucker-Ehrenbrink, 2003やRobinson et al., 2009)。また、最も低い187Os/188Os比(およそ0.235)を示した層準では、OsとIr濃度の一時的な上昇が確認できた。これらの結果から、K-Pg境界を含む層準を特定することができた。加えて、Os/Ir比の詳細な検討を行った結果、古第三紀初期に短期間のハイエタスが存在することが判明した。
Ravizza and Peucker-Ehrenbrink (2003)とRobinson et al.(2009)によると、白亜紀末における187Os/188Os比の2段階の低下が世界中のサイトで観測されている。1段階目の低下(0.6から0.4へ)はK-Pg境界直前のC29R/C30N地磁気逆転境界(約66.3Ma)から始まっており、これはデカン火山活動が開始した時期とほぼ一致する。2段階目の低下(0.4から0.2へ)はK-Pg隕石衝突によるものとされる。ところが、川流布層においては、デカン火山活動時期にあたるC29R逆磁極期でも187Os/188Os比はおよそ0.6で安定しており、K-Pg境界直下で突然低下する。これは、隕石起源と火山起源の白金族元素の堆積場への供給のされ方の違いを反映している可能性が高い。先行研究のサイトは遠洋域に位置しているのに対し、川流布層は前弧海盆の中でも外側陸棚から陸棚斜面上部において堆積したと考えられる。これをふまえると、川流布層における白金族元素のフラックスは、外洋のものとは異なっていた可能性がある。
【引用文献】
Ravizza, G., and Peucker-Ehrenbrink, B., 2003. Chemostratigraphic evidence of Deccan volcanism from the marine osmium isotope record. Science. 302, 1392-1395.
Robinson, N., Ravizza, G., Coccioni, R., Peucker-Ehrenbrink, B., and Norris, R., 2009. A high-resolution marine 187Os/188Os record for the late Maastrichtian: Distinguishing the chemical fingerprints of Deccan volcanism and the KP impact event. Earth Planet. Sci. Lett. 281, 159-168.
Saito, T., Yamanoi, T. and Kaiho, K., 1986. End-Cretaceous devastation of terrestrial flora in the boreal Far East. Nature. 323, 253-255.
日本では、北海道の根室層群において、白亜紀上部~古第三紀下部の堆積物が報告されている(Saito et al., 1986)が、このセクションではIr濃度の明瞭なピークは確認されなかった。近年、Saito et al.(1986) の検討したセクションの近傍の根室層群・川流布層において、微化石の詳細な検討や、凝灰岩の放射年代測定(ジルコンU-Pb)に基づき、白亜紀上部~古第三紀を含む堆積層が同定された。本研究では、白金族元素濃度と187Os/188Os比を測定し、K-Pg境界の層序的位置の特定を試みた。川流布川北支流南枝沢において堆積岩を採集し、長い時間幅の低解像度分析と、K-Pg境界と推定される層序における高解像度分析を行った。
白亜紀上部と推定される区間における187Os/188Os比はおよそ0.6を示し、古第三紀下部と推定される区間ではおよそ0.4を示した。これは、遠洋性堆積岩に記録された白亜紀と古第三紀の海水の値とそれぞれ一致する(例えば、Ravizza and Peucker-Ehrenbrink, 2003やRobinson et al., 2009)。また、最も低い187Os/188Os比(およそ0.235)を示した層準では、OsとIr濃度の一時的な上昇が確認できた。これらの結果から、K-Pg境界を含む層準を特定することができた。加えて、Os/Ir比の詳細な検討を行った結果、古第三紀初期に短期間のハイエタスが存在することが判明した。
Ravizza and Peucker-Ehrenbrink (2003)とRobinson et al.(2009)によると、白亜紀末における187Os/188Os比の2段階の低下が世界中のサイトで観測されている。1段階目の低下(0.6から0.4へ)はK-Pg境界直前のC29R/C30N地磁気逆転境界(約66.3Ma)から始まっており、これはデカン火山活動が開始した時期とほぼ一致する。2段階目の低下(0.4から0.2へ)はK-Pg隕石衝突によるものとされる。ところが、川流布層においては、デカン火山活動時期にあたるC29R逆磁極期でも187Os/188Os比はおよそ0.6で安定しており、K-Pg境界直下で突然低下する。これは、隕石起源と火山起源の白金族元素の堆積場への供給のされ方の違いを反映している可能性が高い。先行研究のサイトは遠洋域に位置しているのに対し、川流布層は前弧海盆の中でも外側陸棚から陸棚斜面上部において堆積したと考えられる。これをふまえると、川流布層における白金族元素のフラックスは、外洋のものとは異なっていた可能性がある。
【引用文献】
Ravizza, G., and Peucker-Ehrenbrink, B., 2003. Chemostratigraphic evidence of Deccan volcanism from the marine osmium isotope record. Science. 302, 1392-1395.
Robinson, N., Ravizza, G., Coccioni, R., Peucker-Ehrenbrink, B., and Norris, R., 2009. A high-resolution marine 187Os/188Os record for the late Maastrichtian: Distinguishing the chemical fingerprints of Deccan volcanism and the KP impact event. Earth Planet. Sci. Lett. 281, 159-168.
Saito, T., Yamanoi, T. and Kaiho, K., 1986. End-Cretaceous devastation of terrestrial flora in the boreal Far East. Nature. 323, 253-255.