日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL19] 年代層序単元境界の研究最前線

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:星 博幸(愛知教育大学自然科学系)、高嶋 礼詩(東北大学総合学術博物館)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、岡田 誠(茨城大学理学部理学科)

17:15 〜 18:45

[SGL19-P01] 北西太平洋地域に分布する下部白亜系のWeissert Event層準の層序対比

*都丸 大河1高嶋 礼詩2折橋 裕二3山中 寿朗4安藤 寿男5淺原 良浩6西 弘嗣7黒柳 あずみ2 (1.東北大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3.弘前大学大学院理工学研究科、4.東京海洋大学海洋環境科学部門、5.茨城大学大学院理工学研究科理学野地球環境科学領域、6.名古屋大学院環境学研究科地球環境科学専攻、7. 福井県立大学恐竜研究所)

キーワード:相馬中村層群、下部白亜系、炭素同位体比層序、U-Pb放射年代、有機元素分析

白亜紀には,海洋無酸素事変(OAEs)に代表される当時の炭素循環に汎世界的な影響を与えた環境イベントが多発しており,その一つにWeissert Eventがあげられる.Weissert Eventは白亜紀前期Valanginian後期からHauterivian前期にかけて発生し,δ13Cの顕著な正のエクスカーションに特徴づけられることから,白亜紀最古の大規模なOAEsと考えられてきた(Erba et al., 2004).しかし,Weissert Event発生期間にテチス海~大西洋地域では無酸素水塊が発達しなかったとされ,黒色頁岩の報告は中央太平洋とウェッデル海にのみ限られる(Erba et al., 2004; Cavalheiro et.al., 2021).また,複数の先行研究では,Weissert Eventのδ13Cの正のエクスカーションの原因は,無酸素水塊の拡大ではなく,大陸での世界的な石炭層の埋没によると主張している(Westermann et al., 2010; Kujau et al., 2012).したがって,白亜紀前期に最大の海洋であったパンサラッサ海での黒色頁岩の分布を明らかにすることは重要である.しかしながら,Weissert Event発生時期のパンサラッサ海の古海洋学的条件についてはほとんど知られていない.また,白亜紀前期の年代モデルの観点では,テチス地域と大西洋地域の代表的なValanginian階の層準には凝灰岩が挟まらないため,Valanginian期の放射年代は今までに得られていない.
福島県の太平洋沿岸域に露出する相馬中村層群小山田層は,パンサラッサ海北西部のアジア大陸縁辺にて連続的に堆積した陸源堆積物から構成される下部白亜系であり,泥岩に凝灰岩層がしばしば挟まる.したがって,パンサラッサ海北西部でのWeissert Event発生期間の古環境変動とその放射年代を明らかにするため,小山田層での炭素同位体比層序の作成と凝灰岩のジルコンU-Pb放射年代および泥岩試料のCHNS分析を行った.
その結果,小山田層中部から上部にかけて,Weissert Eventの同位体比変動に極めて類似した炭素同位体比の約2‰の顕著な正のピークが確認された.また,小山田層下部に挟まる凝灰岩からは135.6±0.8 Ma,正のピークが確認される小山田層上部の凝灰岩からは134.6±0.9 Ma,ピークの上位に相当する小山田層最上部の凝灰岩からは133.9±1.2 Maと133.3±1.8 MaのジルコンU-Pb年代を得ることができた.これらの結果をもとに模式セクションで天文年代から求められた年代モデル( Martinez et al., 2023)と比較を行なったところ,おおよそ整合的な結果が得られたが,Weissert Eventの1st build-upの期間はイタリアUmbria-Marcheの年代モデルより約60kyr古いというわずかな違いが見いだされた.また,小山田層泥岩サンプルのCHNS分析の結果,TOC及びTSは両者とも低い値を示し,小山田層堆積当時は酸化的な環境が卓越していた可能性が高い.

引用文献
Erba et al., 2004, Geology, 32.2, 149-152.
Westermann et al., 2010, EPSL, 290(1-2), 118-131.
Martinez et al, 2023, Earth-Science Reviews, 104356.