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[SMP21-P03] エンリッチした同位体比を持つ南西北海道札幌岳-空沼岳マグマの成因とその豊羽鉱床形成に関する示唆
キーワード:Sr-Nd-Pb同位体比、東北日本孤、熱水性鉱床、微量元素
火成活動の多様性は地球内部の様々なプロセスの多様性を反映しており、その地域の地質、地形や、人間に利用可能な資源をもたらす鉱床の有無に大きな影響を及ぼす。本研究で対象とする東北日本孤の南西北海道においては、鮮新世のカルクアルカリ系列の火成活動によって、豊羽鉱床をはじめとする、日本の近代鉱業を支えた鉱床の形成が開始されたと考えられている [1]。しかし、南西北海道における鮮新世火成活動については未だ不明な点が多く残されており、そのことが火成活動と鉱床形成の関連解明を阻む壁のひとつともなっている。そこで本研究においては、南西北海道における鮮新世火山岩として知られる無意根山、長尾山、余市岳、札幌岳、空沼岳の化学組成およびSr-Nd-Pb同位体比の分析を行い、これらの火成岩の成因について検討した。
分析の結果、無意根山、長尾山、余市岳の火山岩は第四紀の南西北海道玄武岩 [2] と同様に枯渇したSr-Nd-Pb同位体比を示した。一方、札幌岳および空沼岳はよりエンリッチしたSr-Nd-Pb同位体比を示し、札幌岳の玄武岩の中には15 Ma 以前の南西北海道玄武岩 [3] と類似したNd同位体比(143Nd/144Nd < 0.5128)を示すものもあった。また、SiO2濃度に対するZr/Nb比が、無意根山、長尾山、余市岳においては高く、札幌岳および空沼岳においては低いことがわかった。これら同位体比および濃度の傾向は、先行研究 [4] による報告とも整合的である。なお、そのほかの元素組成の傾向については、無意根山、長尾山、および余市岳と札幌岳、空沼岳で顕著な差は見られなかった。
南西北海道における15 Ma 以前の火山岩は、日本海拡大を引き起こしたアセノスフェリックマントルの上昇に伴い、エンリッチしたNd同位体比を持つ大陸下リソスフェリックマントル (SCLM) が部分溶融することで形成されたと言われている [3]。一方、日本海拡大の完了後の南西北海道のマグマは、枯渇したNd同位体比 (143Nd/144Nd > 0.5128 [3]) を持つアセノスフェリックマントルを起源とすることが知られている。したがって、札幌岳および空沼岳に見られるエンリッチしたNd同位体比は、日本海拡大完了後の火成活動に一般的にみられる同位体比とは合致しない特異なものであるといえる [4]。札幌岳の起源マグマ形成に関与したエンリッチした同位体比を持つ物質としては、沈み込むスラブに由来する物質 (堆積物または海洋地殻に由来する流体またはメルト) 、および日本列島地下に残存するSCLM由来の物質が考えられる。しかし、余市岳と札幌岳の玄武岩のZr/Nb比の違いを、沈み込むスラブに由来する物質からの寄与の変化だけで説明するのは難しく、枯渇度の低いマントル物質からの寄与が必要である。したがって、札幌岳の玄武岩には、15 Ma 以前の火山岩を形成したものと同様の、Zr/Nb比の低いリソスフェリックマントル由来物質の寄与があると考えられる。
鮮新世南西北海道のテクトニックセッティングにおいて、SCLMは部分溶融する温度圧力条件にない。したがって、札幌岳の玄武岩を形成するためには、マントルウェッジ中の部分溶融が起きる領域まで、SCLM由来物質を運搬するメカニズムが必要である。南西北海道においては現在、襟裳海山よりも古い時代に形成された海山の沈み込みが起きていることが知られており [5]、このような海山の沈み込みは、上盤側プレートの構造浸食や、SCLM物質を含むメランジュの形成を促進すると考えられる。メランジュとしてマントルウェッジ中に引きずり込まれたSCLMの断片は沈み込むプレートから脱水した水により蛇紋岩化し、軽くなって浮力を得てダイアピル岩体として上昇したのち部分溶融してマグマを形成した [6] 可能性がある。講演においては、札幌岳のように初生マグマに多様な起源物質を含むマグマが、豊羽鉱床の多金属鉱化に寄与した可能性についても掘り下げる。
[1] Watanabe, Y. 2002. Resour. Geol. 52, 191-210.
[2] Nakamura, H. et al. 2019. Gondwana Res. 70, 36-49.
[3] Takanashi, K. et al. 2011. Lithos 125, 368-392.
[4] 中川ほか 2013. 日本地質学会第120年学術大会, R3-O-3.
[5] Yamazaki, T., Okamura, Y., 1989. Tectonophysics 160, 207-229.
[6] Marschall, H.R., Schumacher, J.C., 2012. Nat. Geosci. 5, 862-867.
分析の結果、無意根山、長尾山、余市岳の火山岩は第四紀の南西北海道玄武岩 [2] と同様に枯渇したSr-Nd-Pb同位体比を示した。一方、札幌岳および空沼岳はよりエンリッチしたSr-Nd-Pb同位体比を示し、札幌岳の玄武岩の中には15 Ma 以前の南西北海道玄武岩 [3] と類似したNd同位体比(143Nd/144Nd < 0.5128)を示すものもあった。また、SiO2濃度に対するZr/Nb比が、無意根山、長尾山、余市岳においては高く、札幌岳および空沼岳においては低いことがわかった。これら同位体比および濃度の傾向は、先行研究 [4] による報告とも整合的である。なお、そのほかの元素組成の傾向については、無意根山、長尾山、および余市岳と札幌岳、空沼岳で顕著な差は見られなかった。
南西北海道における15 Ma 以前の火山岩は、日本海拡大を引き起こしたアセノスフェリックマントルの上昇に伴い、エンリッチしたNd同位体比を持つ大陸下リソスフェリックマントル (SCLM) が部分溶融することで形成されたと言われている [3]。一方、日本海拡大の完了後の南西北海道のマグマは、枯渇したNd同位体比 (143Nd/144Nd > 0.5128 [3]) を持つアセノスフェリックマントルを起源とすることが知られている。したがって、札幌岳および空沼岳に見られるエンリッチしたNd同位体比は、日本海拡大完了後の火成活動に一般的にみられる同位体比とは合致しない特異なものであるといえる [4]。札幌岳の起源マグマ形成に関与したエンリッチした同位体比を持つ物質としては、沈み込むスラブに由来する物質 (堆積物または海洋地殻に由来する流体またはメルト) 、および日本列島地下に残存するSCLM由来の物質が考えられる。しかし、余市岳と札幌岳の玄武岩のZr/Nb比の違いを、沈み込むスラブに由来する物質からの寄与の変化だけで説明するのは難しく、枯渇度の低いマントル物質からの寄与が必要である。したがって、札幌岳の玄武岩には、15 Ma 以前の火山岩を形成したものと同様の、Zr/Nb比の低いリソスフェリックマントル由来物質の寄与があると考えられる。
鮮新世南西北海道のテクトニックセッティングにおいて、SCLMは部分溶融する温度圧力条件にない。したがって、札幌岳の玄武岩を形成するためには、マントルウェッジ中の部分溶融が起きる領域まで、SCLM由来物質を運搬するメカニズムが必要である。南西北海道においては現在、襟裳海山よりも古い時代に形成された海山の沈み込みが起きていることが知られており [5]、このような海山の沈み込みは、上盤側プレートの構造浸食や、SCLM物質を含むメランジュの形成を促進すると考えられる。メランジュとしてマントルウェッジ中に引きずり込まれたSCLMの断片は沈み込むプレートから脱水した水により蛇紋岩化し、軽くなって浮力を得てダイアピル岩体として上昇したのち部分溶融してマグマを形成した [6] 可能性がある。講演においては、札幌岳のように初生マグマに多様な起源物質を含むマグマが、豊羽鉱床の多金属鉱化に寄与した可能性についても掘り下げる。
[1] Watanabe, Y. 2002. Resour. Geol. 52, 191-210.
[2] Nakamura, H. et al. 2019. Gondwana Res. 70, 36-49.
[3] Takanashi, K. et al. 2011. Lithos 125, 368-392.
[4] 中川ほか 2013. 日本地質学会第120年学術大会, R3-O-3.
[5] Yamazaki, T., Okamura, Y., 1989. Tectonophysics 160, 207-229.
[6] Marschall, H.R., Schumacher, J.C., 2012. Nat. Geosci. 5, 862-867.