日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP23] 鉱物の物理化学

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:萩原 雄貴(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、近藤 望(岡山大学惑星物質研究所)、柿澤 翔(高輝度光科学研究センター)

17:15 〜 18:45

[SMP23-P07] 長野県大鹿村のダナイト中の自然鉄を含む蛇紋石脈の微細構造

*武田 侑也1、桑原 義博1上原 誠一郎1 (1.九州大学)

キーワード:自然鉄、蛇紋石、ブルース石

1. はじめに
蛇紋岩化作用はカンラン石と熱水から蛇紋石を生成する反応で,カンラン石中のFe2から磁鉄鉱を生成するためFe2の一部がFe3になる.そのときに水素が発生し,より還元的な環境が形成され,自然鉄,アワルワ鉱(Ni₂Fe-Ni₃Fe)などが形成される場合がある (Frost, 1985).長野県大鹿村のカンラン岩は入沢井と大河原にあり,その中の蛇紋石脈に日本で初めて蛇紋岩化作用で生じる自然鉄が報告され,蛇紋石脈はその前後関係から3段階あり,自然鉄は蛇紋石脈の2段階目のクリノクリソタイルとブルース石からなる脈に見られるとした(岡本ら, 1981; Sakai & Kuroda , 1983).本研究では楕円形の自然鉄を含む蛇紋石脈について微細構造観察を行った.
 
2. 方法
 長野県大鹿村のカンラン岩体について野外調査を行い,ダナイト,ウェールライト,蛇紋岩について岩石薄片を作成し,肉眼及び偏光・反射顕微鏡観察を行った.全岩及び蛇紋石脈の構成鉱物はX線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ,Rigaku RINT RAPID Ⅱ)で決定した.化学組成分析,組織観察にはSEM(JEOL JSM-7001F) 及びFE-EPMA(JEOL JXA-8530F)を用いた.また,九州大学超顕微研究センターのFIB-SEM(FEI Quanta 3D 200i, HITACHI MI4000L, Thermo Fisher Scientific Helios 5 UX)を用いて薄膜試料を作成し,電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM300F2, JEOL JEM-2100F)で微細構造観察及び化学組成の測定を行った.

3. 結果
カンラン岩は主にカンラン石,クロム鉄鉱で構成され,その中に幅数cm~数10 µmの直線的な蛇紋石脈がある.蛇紋石脈は主にリザーダイト,多角柱状蛇紋石,クリソタイル,ブルース石,磁鉄鉱,自然鉄,アワルワ鉱で構成される.自然鉄は蛇紋石脈Ⅲ及びⅣに存在する(Fig. 1b).脈は4方向あり,肉眼および薄片観察により脈の前後関係を調べ,早期の脈から蛇紋石脈Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳとした(Fig. 1a).脈中の蛇紋石とブルース石の化学組成をSEM-EDSで測定し,#Mg=Mg/(Mg+Fe)を求めた結果,蛇紋石脈Ⅰ,Ⅱの蛇紋石は#Mg=0.94ブルース石は#Mg=0.66~0.79であり,蛇紋石脈Ⅲ,Ⅳの蛇紋石は#Mg=0.96,ブルース石は#Mg=0.77~0.86であった.
蛇紋石脈Ⅲは10 µm ~ 100 µm,薄片の肉眼観察では灰緑色で,偏光顕微鏡では無色透明に見える.脈の中心にブルース石に富む部分があり,脈とカンラン石の境界には長さ数 µmから20 µmの針状の変質部が蛇紋石脈からカンラン石結晶内部に向かって見られた.自然鉄は楕円形で,長軸が脈に対して垂直になるように並び,脈の縁や中心には微小な結晶のアワルワ鉱が観察された.蛇紋石脈Ⅲの自然鉄の周囲に磁鉄鉱が共存しているものもあった.
蛇紋石脈Ⅳは幅300 μmから2,3 mm程度で,厚い薄片を肉眼観察すると緑褐色,偏光顕微鏡で褐色と無色透明の部分が観察された.蛇紋石脈の中に楕円状や脈状にブルース石に富む部分が見られた.不規則な形をした自然鉄や磁鉄鉱がみられ,アワルワ鉱は50~数100 nmの結晶で,脈中に偏在していた.また,脈中や脈の周囲に平均2.8 wt%のMnを含むアンチゴライトがみられる.
蛇紋石脈ⅢのTEMによる観察で,針状変質部はリザーダイトとブルース石で構成され,カンラン石との境界は蛇紋石で針状の中心にはブルース石が存在していた.また,蛇紋石脈のカンラン石に近い部分は多角柱状蛇紋石とクリソタイルで構成される.脈の中心に近くなるとリザーダイトとブルース石,自然鉄で構成されていた(Fig. 1c).STEM-EDSマッピングの結果から蛇紋石,ブルース石の化学組成を求めた.針状変質部の蛇紋石の#Mgは0.94でブルース石の#Mgは0.83であった.また,脈中のリザーダイトの#Mgは0.96,多角柱状蛇紋石+クリソタイルの#Mgは0.97で,ブルース石の#Mgは0.87であった.
蛇紋石脈Ⅲの楕円形の自然鉄を含む蛇紋石脈はリザーダイトと多角柱状蛇紋石,クリソタイル,ブルース石であった.これらの蛇紋石の組成には計算上Fe3がほとんど含まれないことや,自然鉄を囲むように磁鉄鉱が存在している組織があることから,自然鉄は鉄の価数の変化で生じる水素で形成されてはいないと考えられる.