[S-MP24] 変形岩・変成岩とテクトニクス

[SMP24-01] 静岡県北⻄部渋川地域の御荷鉾超苦鉄質岩体と三波川帯泥質⽚岩の構造関係

*片桐 星来^1,2、纐纈 佑衣¹、道林 克禎^1,3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科（岩鉱）、2.産業技術総合研究所地質情報研究部門、3.海洋研究開発機構海域地震火山部門)

キーワード：三波川変成帯、御荷鉾帯、炭質物ラマン温度計、泥質片岩、超苦鉄質岩

三波川変成帯は，一般的に中央構造線を北限，秩父帯を南限とする低温高圧型の変成帯であり，沈み込み帯深部の構造発達と物質循環を理解するうえで重要な地質体である。静岡県北西部渋川地域には中央構造線の外帯側に三波川帯と御荷鉾帯が交互に分布する。さらに三波川帯低変成度域の緑泥石帯の泥質片岩中に岩石学的特徴から御荷鉾帯に帰属する集積岩とされる3×2km程度の渋川超苦鉄質岩体が存在する(塩谷ほか2021)．本研究は，渋川超苦鉄質岩体とその周囲の泥質片岩の構造関係を明らかにすることを目的として野外調査と岩石試料の解析を行った．渋川地域の泥質片岩について，露頭では褶曲構造が観察された．また，渋川超苦鉄質岩体内部にも泥質片岩の露頭が確認された．採取した泥質片岩の研磨薄片を作成して微細組織を観察した．主要鉱物は石英，白雲母，曹長石，緑泥石，炭質物であり，一部試料ではそれぞれアパタイト，ルチル，カルサイト，ローソン石，黄鉄鉱，チタナイトが含まれていた．
研究方法として，炭質物の結晶化度から最高被熱温度を推定する炭質物ラマン温度計を泥質片岩に適用する変成温度推定(Kouketsu et al. 2014, Kaneki & Kouketsu 2022)と，走査型電子顕微鏡を用いて石英および曹長石の粒径を測定した．炭質物ラマン温度計を適用した結果は277℃〜479℃の温度範囲を示したが，特に渋川超苦鉄質岩体内部の泥質片岩は周囲よりも低い温度を示した．石英の平均粒径は，変成温度が上がるとわずかに大きくなる正の相関を示し，曹長石の平均粒径は変成温度に対して石英よりも強い正の相関を示した．また，泥質片岩の構造姿勢と変成温度の関係から，渋川地域では構造的下位に向かって変成温度が上昇する地質構造をもつことが推定された．加えて，渋川超苦鉄質岩体内部の泥質片岩は，標高差や温度構造を考慮しても岩体周囲の泥質片岩よりも変成温度が低いことから，御荷鉾帯の渋川超苦鉄質岩体が変成作用時には現在よりも構造的上位に位置していたことが示唆された．
[引用文献]
Kouketsu, Y., et al., 2014, Island Arc, 23, 33–­50.
Kaneki, S., Koukestu, Y., 2022, Island Arc, 31, e12467.
塩谷　輝　ほか　2021, J. Geol. Soc. Japan, 127, 59–65.