[S-MP24] 変形岩・変成岩とテクトニクス

[SMP24-P01] 上部マントルの変形と岩石メルト相互作用：北海道, 幌満かんらん岩体の層状構造からの制約

*日原 彩¹、田阪 美樹¹、栗原 圭佑¹、谷内 元²、川本 竜彦¹ (1.国立大学法人静岡大学、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所)

キーワード：マントル、かんらん岩、幌満かんらん岩、変形、結晶方位、電子線後方散乱回折

変形はメルトの浸透を促進しメルトの分布をコントロールする可能性がある．先行研究のオリビン＋メルトの剪断変形実験では, 変形によりメルトに富むバンドとメルトに乏しいバンドに分離することが示されている．また, メルト存在下での変形は歪みを局在化させ，結晶方位に影響を与えることが示唆されている.
幌満かんらん岩体のUpper Zoneはmafic岩に富み, 数mmから数mスケールの層構造が発達する．本研究対象のアポイ岳北尾根の露頭はUpper Zoneに分類され, spinel harzburgite-lherzolite（スピネルかんらん岩）, plagioclase lherzolite（斜長石かんらん岩）, mafic rocks（マフィック岩）の三つの岩相による層構造が発達する. 本研究では，この露頭から岩石試料を採取し構造岩石学的データを解析することによって上部マントルの変形と岩石メルト相互作用を明らかにした.
微細構造観察からこれらの岩石は主に転位クリープで変形したと解釈できる. Electron Back Scattered Diffraction（EBSD）による解析では, オリビンは強い形態定向配列(SPO)を示し，結晶方位の集中度を示すJ-Indexの値は他のかんらん岩体と比較して低い値を示す. 結晶方位は2種類のCPOファブリックが観察された. ひとつはオリビンの [100]がX軸方向に[010]がZ軸方向に集中するCPOファブリック(A-type)で, もうひとつは [010]がZ軸方向に集中を示し, [100]と[001]はガードル分布を示すCPOファブリック(AG-type)である．この2種類のCPOファブリックは鉱物のモード組成によって変化することから, メルトの存在度がCPOの発達に影響を与えたと考える．また, 斜方輝石や斜長石, パーガス閃石は粒界に入り込むような不規則な形状で存在し, 明瞭なCPOとSPOを示すため, メルトの浸透は変形と同時に起きたと考えられる. マイクロXRF分析ではメルトと岩石が化学反応したことを示唆する2種類の化学組成の累帯構造を持つ単斜輝石が観察された．このことから, アポイ岳北尾根露頭の層構造は海嶺下で玄武岩質メルトとマントルかんらん岩が反応して形成されたと提案する．層境界の姿勢，面構造，鉱物の配列方向（SPO），鉱物のすべり軸の方位は露頭全体で一致していることから、かんらん岩とマフィック岩を含むこれらの層状岩は同一のイベントで変形・形成したと判断する．両岩石に線構造に平行配列するパーガス閃石の安定領域, 含水かんらん岩のソリダス温度, スピネルの安定領域を考慮し, これらの岩石は温度約1050-1150℃, 圧力約0.7-1.5 GPaでの変形を記録すると提案する．