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[SMP24-P03] 幌加内オフィオライトマントルセクションの微閃緑岩ブロックに含まれる含ホウ素鉱物(datolite)の産状とその意義
キーワード:ホウ素、蛇紋岩、ロジン岩、ダトー石、マントルウェッジ、オフィオライト
近年、蛇紋岩から個液比1:10での振とう溶出試験により環境基準(1mg/L)を超える濃度のホウ素を溶出する蛇紋岩の存在が報告されており(石神ほか,2022)、蛇紋岩類の有害な自然由来重金属の含有について地質学的な成因の解明が求められている。本報告では、蛇紋岩岩体と密接に関わり出現する微閃緑岩からホウ素含有鉱物(ダトー石:Datolite [CaBSiO4(OH)])の産出を確認したため、その産状、記載岩石学的特徴、鉱物化学組成について予察的な解析結果について報告する。
ダトー石を含む微閃緑岩の産出地は、北海道の神居古潭帯の蛇紋岩岩体(鷹泊岩体)であり、幌加内オフィオライトのマントルセクションに相当する(Igarashi et al., 1985)。また、鷹泊岩体の構造的下位には、断層を境に海洋スラブ起源の青色片岩を伴う神居古潭変成岩類(幌加内コンプレックス)が分布し、マントルウェッジ/スラブ境界における物質循環の一端が解析可能な地質体であると考えられる。鷹泊岩体はハルツバージャイト・ダナイトを原岩とする塊状〜葉片状の蛇紋岩類で構成され、多数のはんれい岩質〜微閃緑岩のブロックを伴う。岩体中の蛇紋岩類には、変成かんらん石やアンチゴライトを伴う高温型蛇紋岩化作用と、リザーダイトを伴う低温型の蛇紋岩化作用が複合的に認められる(高見澤ほか, 2022)。斑れい岩〜微閃緑岩(以下、微閃緑岩)は葉片状蛇紋岩中に、岩脈状あるいはブロック状に含まれ、大きさは数10〜数mのものが多く、まれに数10mを超える。原岩の深成岩組織を残す微閃緑岩は斜長石、緑色〜褐色の角閃石、Fe-Ti酸化物を主体とし、副成分鉱物としてチタン石、微小のジルコンを伴う。角閃石は一部あるいは完全に緑泥石に置換されるものが多い。2次的な鉱物脈として、ブドウ石あるいはCa炭酸塩を主体とする白色鉱物脈が普遍的に存在する。微閃緑岩はややNa2Oに富む島弧ソレアイトであるとされ(加藤ほか,1989)、125±12 MaのK-Ar年代の報告があるが(通商産業省, 1994)、微量元素分析、ジルコンU-Pb年代値は報告されていない。
ダトー石を含む微閃緑岩ブロックは、幌加内峠近傍でのトンネル事業で2010年に採取された水平ボーリングコア試料から採取した。岩石薄片の記載、EPMAを用いた鉱物およびマッピング分析を行った。微閃緑岩ブロックは幅115cmで葉片状蛇紋岩中に明灰色の岩脈状に出現し、最大で幅1.5cm程度の白色脈を数条含む。また、蛇紋岩との接触部は暗灰色に変色しており、一見急冷周縁相の様相を呈する。母岩部の構成鉱物は、ロジン岩化作用により緑泥石、方解石、灰鉄ザクロ石、チタン石に交代されており、原岩組織はやや不明瞭である。また、Fe-Ti酸化物は含まれず、不透明鉱物として直径10 µm以下の自然銅を含む。 ダトー石を含む白色鉱物脈は、中心部が自形の珪線石と他形の方解石、壁面部に自形の珪線石と他形のダトー石の組み合わせをもつ。ダトー石は珪線石の一部交代する形で成長しており、方解石とダトー石は接触関係にある。また、白色鉱物脈は一部にCaO 38-39 wt%, FeOtotal 1.7-6.1 wt%、TiO2を2〜11 wt%含む径0.1mm以下の自形のTiザクロ石 (Titanian andradite)を含む。Tiザクロ石には最大11.3 wt%のTiO2含有量を示す繊維状〜針状形状のコアが認められ、チタン石を交代して成長したと推定される。また、FeOtotalを6 wt%程度む薄いリムが形成されている。Tiザクロ石は珪線石に切られることから、鉱物の晶出順序は、チタン石 → Tiザクロ石 → 珪線石 → ダトー石 + 方解石と推定される。微閃緑岩中の脈としての産状と、鉱物の晶出順序から、Ca-Siの交代作用(ロジン岩化)にホウ素に富む流体が関与したことが示唆される。
蛇紋岩に伴われる微閃緑岩(ロジン岩)から、ダトー石、珪線石、方解石、Tiサクロ石の共存関係の報告は恐らく本報告が初であると考えられる。日本の沈み込み帯セッティングにおけるダトー石は、三波川帯のエクロジャイト相当の炭酸塩岩中に見つかっており400–650℃、0.8–1.3 GPaの形成条件が示されている(Yoshida et al., 2021)。また、長崎変成岩類の蛇紋岩に伴われるロジン岩中から、本報告同様のTiに富むザクロ石(Titanian andradite)の産出が報告されており、0.6–0.8 GPa、〜400℃という形成条件が推定されている(Schmitt et al., 2019)。今後、このような解析条件が本岩石においても妥当であるのか、また、幌加内オフィオライトにおけるホウ素の起源を解析し、マントルウェッジセッティングにおける微閃緑岩および蛇紋岩岩体の形成プロセスについて解析を進めたい。
【引用文献】
石神ほか(2022)土木学会全国大会第77回年次学術講演会, VI-274.
Igarashi et al.(1985)J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., S4, Geol. and min., 21(3), 305-319.
加藤ほか(1989): 日本地質学会学術講演要旨,第96年学術大会, p.556.
通商産業省資源エネルギー庁(1994):平成5年度 希少金属鉱物資源の賦存状況調査報告書-日高北部地域-, p.171.
高見澤ほか(2022):日本地質学会第129年学術大会、T1-O-9.
Yoshida, K., Niki, S., Sawada, H. and Oyanagi, R. (2021) J. Mineral. and Petrol. Sci., 116(1), 1-8.
Schmitt A. C., Tokuda, M., Yoshiasa, A. and Nishiyama, T. (2019) J. Mineral. and Petrol. Sci., 114(3), 111-121.
ダトー石を含む微閃緑岩の産出地は、北海道の神居古潭帯の蛇紋岩岩体(鷹泊岩体)であり、幌加内オフィオライトのマントルセクションに相当する(Igarashi et al., 1985)。また、鷹泊岩体の構造的下位には、断層を境に海洋スラブ起源の青色片岩を伴う神居古潭変成岩類(幌加内コンプレックス)が分布し、マントルウェッジ/スラブ境界における物質循環の一端が解析可能な地質体であると考えられる。鷹泊岩体はハルツバージャイト・ダナイトを原岩とする塊状〜葉片状の蛇紋岩類で構成され、多数のはんれい岩質〜微閃緑岩のブロックを伴う。岩体中の蛇紋岩類には、変成かんらん石やアンチゴライトを伴う高温型蛇紋岩化作用と、リザーダイトを伴う低温型の蛇紋岩化作用が複合的に認められる(高見澤ほか, 2022)。斑れい岩〜微閃緑岩(以下、微閃緑岩)は葉片状蛇紋岩中に、岩脈状あるいはブロック状に含まれ、大きさは数10〜数mのものが多く、まれに数10mを超える。原岩の深成岩組織を残す微閃緑岩は斜長石、緑色〜褐色の角閃石、Fe-Ti酸化物を主体とし、副成分鉱物としてチタン石、微小のジルコンを伴う。角閃石は一部あるいは完全に緑泥石に置換されるものが多い。2次的な鉱物脈として、ブドウ石あるいはCa炭酸塩を主体とする白色鉱物脈が普遍的に存在する。微閃緑岩はややNa2Oに富む島弧ソレアイトであるとされ(加藤ほか,1989)、125±12 MaのK-Ar年代の報告があるが(通商産業省, 1994)、微量元素分析、ジルコンU-Pb年代値は報告されていない。
ダトー石を含む微閃緑岩ブロックは、幌加内峠近傍でのトンネル事業で2010年に採取された水平ボーリングコア試料から採取した。岩石薄片の記載、EPMAを用いた鉱物およびマッピング分析を行った。微閃緑岩ブロックは幅115cmで葉片状蛇紋岩中に明灰色の岩脈状に出現し、最大で幅1.5cm程度の白色脈を数条含む。また、蛇紋岩との接触部は暗灰色に変色しており、一見急冷周縁相の様相を呈する。母岩部の構成鉱物は、ロジン岩化作用により緑泥石、方解石、灰鉄ザクロ石、チタン石に交代されており、原岩組織はやや不明瞭である。また、Fe-Ti酸化物は含まれず、不透明鉱物として直径10 µm以下の自然銅を含む。 ダトー石を含む白色鉱物脈は、中心部が自形の珪線石と他形の方解石、壁面部に自形の珪線石と他形のダトー石の組み合わせをもつ。ダトー石は珪線石の一部交代する形で成長しており、方解石とダトー石は接触関係にある。また、白色鉱物脈は一部にCaO 38-39 wt%, FeOtotal 1.7-6.1 wt%、TiO2を2〜11 wt%含む径0.1mm以下の自形のTiザクロ石 (Titanian andradite)を含む。Tiザクロ石には最大11.3 wt%のTiO2含有量を示す繊維状〜針状形状のコアが認められ、チタン石を交代して成長したと推定される。また、FeOtotalを6 wt%程度む薄いリムが形成されている。Tiザクロ石は珪線石に切られることから、鉱物の晶出順序は、チタン石 → Tiザクロ石 → 珪線石 → ダトー石 + 方解石と推定される。微閃緑岩中の脈としての産状と、鉱物の晶出順序から、Ca-Siの交代作用(ロジン岩化)にホウ素に富む流体が関与したことが示唆される。
蛇紋岩に伴われる微閃緑岩(ロジン岩)から、ダトー石、珪線石、方解石、Tiサクロ石の共存関係の報告は恐らく本報告が初であると考えられる。日本の沈み込み帯セッティングにおけるダトー石は、三波川帯のエクロジャイト相当の炭酸塩岩中に見つかっており400–650℃、0.8–1.3 GPaの形成条件が示されている(Yoshida et al., 2021)。また、長崎変成岩類の蛇紋岩に伴われるロジン岩中から、本報告同様のTiに富むザクロ石(Titanian andradite)の産出が報告されており、0.6–0.8 GPa、〜400℃という形成条件が推定されている(Schmitt et al., 2019)。今後、このような解析条件が本岩石においても妥当であるのか、また、幌加内オフィオライトにおけるホウ素の起源を解析し、マントルウェッジセッティングにおける微閃緑岩および蛇紋岩岩体の形成プロセスについて解析を進めたい。
【引用文献】
石神ほか(2022)土木学会全国大会第77回年次学術講演会, VI-274.
Igarashi et al.(1985)J. Fac. Sci., Hokkaido Univ., S4, Geol. and min., 21(3), 305-319.
加藤ほか(1989): 日本地質学会学術講演要旨,第96年学術大会, p.556.
通商産業省資源エネルギー庁(1994):平成5年度 希少金属鉱物資源の賦存状況調査報告書-日高北部地域-, p.171.
高見澤ほか(2022):日本地質学会第129年学術大会、T1-O-9.
Yoshida, K., Niki, S., Sawada, H. and Oyanagi, R. (2021) J. Mineral. and Petrol. Sci., 116(1), 1-8.
Schmitt A. C., Tokuda, M., Yoshiasa, A. and Nishiyama, T. (2019) J. Mineral. and Petrol. Sci., 114(3), 111-121.