日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS03] Seismological advances in the ocean

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:山谷 里奈(防災科学技術研究所)、利根川 貴志(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[SSS03-P09] 地震波干渉法による日本海溝北部の海底下構造の時空間変化とその解釈

佐藤 豪大1、*東 龍介1高木 涼太1日野 亮太1篠原 雅尚2 (1.東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター、2.東京大学地震研究所)

キーワード:地震波干渉法、海底地震計、日本海溝北部、地震学的構造の時空間変化

我々はこれまで,日本海溝北部のえりも沖(2006 – 2007年)と三陸沖(2007 – 2008年)に展開されていた海底地震観測網の連続記録に対し単一観測点の地震波干渉法解析を適用し,地震波速度及び相関係数の時間変化の検討を継続して行なってきた(Sato et al., SSJ, 2023).地震波速度については,M6級の近地地震に伴う最大0.3%程度の低下と地震後の経時的な上昇を検出し,地震の強震動による地盤の損傷とその回復の様子を反映していると解釈した.一方で,観測網直近で発生したテクトニック微動活動 (Takahashi, 2021; Kawakubo, 2021) 期間中には地震波速度の変化は認められず,スロー地震活動に伴って地震波速度変化が観測されたヒクランギの事例 (Wang et al., 2022) と異なる結果が得られている.日本海溝北部でスロー地震に伴う変化が検出されなかった原因に,先行研究の地域と比較して活動の規模が小さい,あるいは震源域が深い,という2つの可能性を考察した.今大会では,これまで課題として残っていた地震波速度低下後の回復過程,および,相関係数の時間変化に関する検討を進めることができたので,それらの議論について発表する.

本発表では,M 6級地震後の回復過程の時定数を定量化するため,地震後の指数関数的な回復を表現したモデル関数によるフィッティングをグリッドサーチにより地震波速度時系列に施した.その結果,地震後の回復の時定数は三陸沖観測網の1観測点を除いて時定数の大きい側を制約することができず,約0.03 – 0.1年より大きいという程度の推定にとどまった.三陸沖観測網の1点で唯一得られた回復の時定数が0.07年(誤差範囲0.03 – 0.5年)と推定されたが,先行研究による三重県沖の地震 (0.27 – 0.45年)や 2008年岩手・宮城内陸地震(0.1 – 2.6年)の事例に比べやや小さい.ただし,本研究の解析期間(約6か月)は先行研究での期間(約1年7ヶ月,約3年)に比べてかなり短いことを踏まえると,今回の結果は地震直後により短い時間スケールで進行する回復過程を反映している可能性がある.
  
相関係数の時系列には,えりも沖観測期間中に発生した2006,2007年のM 8級の千島列島沖地震の直後,三陸沖観測期間中に発生した2008年茨城県沖地震 (Mw 6.8) の直前から直後にかけての3 – 4日間と目立った地震活動のなかった2008年3月に,それぞれ低下する変動がみとめられた.相関係数の低下が観測された期間は,千島列島沖で続発したM 8級の巨大地震と規模の大きい余震活動,茨城県沖の地震(5月8日,Mw 6.8)とその前震及び余震活動の期間に対応することから,我々は相関係数が低下するメカニズムとして,規模の大きい地震やその前震・活発な余震活動を起源とする波動場が卓越することによって生じる常時微動源の時間変化と考察した.一方で,2008年3月のように目立った地震活動が観測されていない期間でも有意な相関係数の低下が検出されており,相関係数の低下現象が必ずしも地震活動と同期するものではないことを示唆している.この低下イベントの原因について,観測網近傍で実施された人工地震探査の影響などを議論する.また,テクトニック微動活動に伴う相関係数変化は検出されず,スロー地震の活動前や活動期に相関係数の低下が観測された南海トラフの事例 (Tonegawa et al., 2022) と異なる結果となった.地震波速度変化と同様に,日本海溝北部のスロー地震活動は規模が小さいか震源域が深い,という理由により変化が検出されないと考えられる.