15:30 〜 15:45
[SSS05-06] 2023年ロイヤリティ諸島南東部地震(MW 7.7)で発生した不規則な破壊伝播

最近の研究によって,とくに海洋地殻内で発生する地震において,見かけ上の逆伝播破壊や,異なる断層セグメントをまたぐ連動的な破壊など不規則な破壊伝播様式が報告されるようになってきた.これらの破壊伝播様式をもつ地震に対しては,破壊方向や断層形状を一意に定める従来型の震源過程解析手法では,観測波形を説明する震源過程モデルの構築が困難な可能性がある.そうした可能性をもつ地震の一例として,2023年5月19日インド・オーストラリアプレートと太平洋プレートの境界である屈曲したバヌアツ沈み込み帯のアウターライズで発生した 2023 年ロイヤリティ諸島南東地震(MW 7.7)がある.震源域の北西ではロイヤリティリッジが沈み込んでおり,震源域とその周辺では顕著な正断層地震活動に加えて横ずれ地震が観測されている.アメリカ地質調査所は,破壊の伝播方向と断層形状をあらかじめ規定する有限断層インバージョンを用いて,2023 年ロイヤリティ諸島南東部地震の震源過程モデルを構築したが,得られた理論波形は観測波形の特徴を十分に説明できていなかった.この結果から,2023 年ロイヤリティ諸島南東部地震には,単純な破壊伝播様式の仮定では再現できない不規則な破壊伝播が含まれている可能性が考えられる.そこで本研究は,高自由度な震源過程モデルを構築できるポテンシー密度テンソルインバージョン(PDTI)を2023年ロイヤリティ諸島南東部地震の遠地実体波P波に適用し,震源過程を議論する.
PDTIは,グリーン関数の不確定性を取り入れることで,断層形状の情報を含めた高自由度な震源過程モデルを安定に推定することを可能としている.本研究は,逆破壊伝播を含む不規則な破壊伝播を表現できるよう,モデル平面の各点で仮想的な破壊フロントが到達した以降は,自由にポテンシーを解放できる自由度が高いモデルを採用した.PDTIは,震源域における断層すべりをモデル平面に投影するため,断層面を設定する必要がない.しかし,断層面とモデル平面が大きく乖離する場合は,波源の位置のずれに由来する誤差が増加する.そこで本研究は,Global Centroid Moment Tensor解と余震分布を参考に,海溝軸に平行な走向280°,傾斜48°のモデル平面を設定した.
解析の結果,破壊は,震源時から6秒まで南東方向に伝播し,その後東方向と西方向にバイラテラルに伝播する.東方向に伝播する破壊は,6〜10秒の間,震源から30 km東に位置する領域(領域 B1)を避けるように伝播するが,10~20秒の間,B1を破壊する.その後20秒までB1を中心として大きな断層すべりが観測される.西方向に伝播した破壊は,10~16秒の間,震源から5 km南,海溝軸に対して平行に伸長する領域(領域 B2)を破壊し,その後停止する.破壊全体を通して正断層型のメカニズムを得たが,後述するように破壊エピソードによって異なる走向が得られた.破壊伝播方向は,初期破壊時に震源から南東へ,その後西方向へのバイラテラル破壊を擁する見かけ上反転する様子が得られた.このモデルにより計算された理論波形は,観測波形をよく説明する.
本解析から,震源から南東に伝播しB1で破壊が妨げられた後にB1で加速する様子と, 震源から南西に位置するB2を破壊することによる逆伝播様式が得られた.B1は破壊開始後,直ちに破壊されずに時間をおいて破壊されていることから,周囲に比べて強い強度をもつ見かけ上のバリアとして働いた可能性がある.これにより,6〜10秒の破壊フロントはB1を避けて周囲を破壊しているが,結果的にこの破壊がB1の破壊に至る十分なせん断応力の集中をもたらした可能性がある.一方,B2における走向の変化に注目すると,逆伝播前から逆伝播直後には260°~280°なのに対し,逆伝播後さらに震源の南の領域を通過した後には280°~300°である.この結果は,南東側に破壊が伝播した断層と北西方向に逆破壊伝播した断層の形状が異なり,逆破壊伝播が分岐した異なる断層上で発生したことを示唆する.
PDTIは,グリーン関数の不確定性を取り入れることで,断層形状の情報を含めた高自由度な震源過程モデルを安定に推定することを可能としている.本研究は,逆破壊伝播を含む不規則な破壊伝播を表現できるよう,モデル平面の各点で仮想的な破壊フロントが到達した以降は,自由にポテンシーを解放できる自由度が高いモデルを採用した.PDTIは,震源域における断層すべりをモデル平面に投影するため,断層面を設定する必要がない.しかし,断層面とモデル平面が大きく乖離する場合は,波源の位置のずれに由来する誤差が増加する.そこで本研究は,Global Centroid Moment Tensor解と余震分布を参考に,海溝軸に平行な走向280°,傾斜48°のモデル平面を設定した.
解析の結果,破壊は,震源時から6秒まで南東方向に伝播し,その後東方向と西方向にバイラテラルに伝播する.東方向に伝播する破壊は,6〜10秒の間,震源から30 km東に位置する領域(領域 B1)を避けるように伝播するが,10~20秒の間,B1を破壊する.その後20秒までB1を中心として大きな断層すべりが観測される.西方向に伝播した破壊は,10~16秒の間,震源から5 km南,海溝軸に対して平行に伸長する領域(領域 B2)を破壊し,その後停止する.破壊全体を通して正断層型のメカニズムを得たが,後述するように破壊エピソードによって異なる走向が得られた.破壊伝播方向は,初期破壊時に震源から南東へ,その後西方向へのバイラテラル破壊を擁する見かけ上反転する様子が得られた.このモデルにより計算された理論波形は,観測波形をよく説明する.
本解析から,震源から南東に伝播しB1で破壊が妨げられた後にB1で加速する様子と, 震源から南西に位置するB2を破壊することによる逆伝播様式が得られた.B1は破壊開始後,直ちに破壊されずに時間をおいて破壊されていることから,周囲に比べて強い強度をもつ見かけ上のバリアとして働いた可能性がある.これにより,6〜10秒の破壊フロントはB1を避けて周囲を破壊しているが,結果的にこの破壊がB1の破壊に至る十分なせん断応力の集中をもたらした可能性がある.一方,B2における走向の変化に注目すると,逆伝播前から逆伝播直後には260°~280°なのに対し,逆伝播後さらに震源の南の領域を通過した後には280°~300°である.この結果は,南東側に破壊が伝播した断層と北西方向に逆破壊伝播した断層の形状が異なり,逆破壊伝播が分岐した異なる断層上で発生したことを示唆する.
