日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS05] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2024年5月26日(日) 15:30 〜 16:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:奥田 花也(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、澤井 みち代(千葉大学)、座長:浦田 優美(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)


16:15 〜 16:30

[SSS05-09] 室内実験の典型的挙動に基づく速度状態依存摩擦則におけるAging lawとSlip lawの調停

*佐藤 大祐1中谷 正生2安藤 亮輔3 (1.海洋研究開発機構、2.東京大学 地震研究所、3.東京大学)

キーワード:速度状態依存摩擦則、断層摩擦

速度・状態依存摩擦(RSF)則は、3種類の室内実験、slide-hold-slide (SHS), velocity-step (VS), steady-state (SS) 試験における典型的な摩擦応力の挙動 (canonical behaviors, 正典的挙動)のコンパイルとして導入された (Dieterich, 1979; Ruina, 1983)。しかし、三種の正典的挙動を同時に完全に説明できる摩擦強度の発展則はまだない。これは震源力学においても問題を生じており、RSFの代表的発展則であるAging lawとSlip lawは種々の断層運動で定性的にも異なった解を予測するという悩みがある (e.g., Ampuero & Rubin, 2008)。Aging lawはSHS canonを説明するが、VS canonとは相容れない。Slip lawはその逆である。後に提案されたComposite law (Kato & Tullis, 2001)は、滑り速度に応じてこれらを切り替えるもので、VS canonとSHS canonの両方を説明するが、SS canonとは矛盾する。本研究は、実験で正典が確認された変数域において、三種の正典すべてを満たす発展則を導いた (Sato, Nakatani, & Ando, 2024, on arXiv:2402.04478)。

まず我々は、三種の正典から発展則に関する制約を導き、SHS canonとVS canonの強度回復レートがあまりにも異なるため、任意の変数域で二正典を完全に整合させることは数学的に不可能であることを見出した。これは、Aging lawとSlip lawの乖離の原因は、それらが依拠するSHS試験とVS試験の要請自体にあることを意味する。SHS試験について、載荷応力を一定にサーボ制御するホールド方式 (Dieterich, 1978; Nakatani & Mochizuki, 1996)を念頭におくと、VS試験とSHS試験の正典の意図する挙動の違いは明瞭だった。荷重点変位を静止させるホールド方式 (Beeler et al., 1994)では、Slip lawがVS試験だけでなくSHS試験でも実験を比較的説明できていた(Bhattacharya et al., 2015; 2017)のとは対照的である。

VS canonとSHS canonの完全な整合が不可能だという前提の下では、現実に実験でこれらが観察されていることは、実験観察範囲外の変数域で摩擦則が従うべきcanonが切り替わることを結論づける。次に、このcanonのswitch (Aging-Slip switch)を調べた。定常状態の周りでSlip lawと整合し0速度でAging lawになるというKato & Tullis (2001)のアイデアを、VS+SS canons (Slip law相当)とSHS canon (Aging law相当)の切り替わりと読み直すと、即時のすべり速度Vと状態変数θのみに依存する発展則を仮定する限り、θと定常状態でのθ値の比、Ωに応じたAging-Slip switchが一意な解として導かれた。正確には、Ωが閾値βより十分小さい場合にはAging law型の状態発展、Ωがβより十分大きい場合にはSlip law型の状態発展になる。Ωに応じたAging-Slip switchの妥当性の検証として、こうして得た発展則を負の大速度ステップのVS試験データ(Bayart et al., 2006)に試験的にフィットしたところ、0.01程度のΩでAging-Slip switchが起きることが示唆された。

元来、古典的な摩擦則は、滑っているか否かで強度発展則を切り替えてきた。Kato & Tullis (2001)の提案した速度Vに応じたAging-Slip switchもその延長にあり、強度回復がagingであるかslip strengtheningであるかを滑っているか否かで切り替えた。滑っているか否かで切り替えるとは、応力が即時の強度より低いか否かで切り替えることに他ならない。これと比べると、Ωに応じたAging-Slip switchは、摩擦面の応力が即時のVに対応する定常値、つまり動摩擦レベルに十分近づくとAgingからSlipへと強度変動の支配的メカニズムを遷移させる。室内実験の正典的挙動に照らすに、強度変動の物理を切り替える応力レベルは強度それ自体ではなく動摩擦抵抗で決まっているらしい。