[S-SS05] 地震発生の物理・断層のレオロジー

[SSS05-P02] 房総沖スロースリップとそれに伴う群発地震との関係

*安原 一晟¹、佐藤 利典² (1.千葉大学理学部、2.千葉大学大学院理学研究院)

キーワード：スロースリップ、群発地震、ΔCFF、流体移動

スロースリップイベント（SSE）は、地震波を放射せずにプレート境界をゆっくりとすべる現象である。測地学的に地殻変動を連続的に観測することによって検出され、日本や世界各地で発生が報告されている。SSEの理解は、プレート境界面における応力蓄積・解放のメカニズムの解明や大地震発生の予測などといった重要な問題の解決のためにも必要である。
房総沖では、GNSS観測により、数～数十日間の継続期間を持つ短期的SSEが1996年から2018年まで2-7年程度の周期で計6回発生していることが知られている。この房総沖SSEでは、それに付随して発生する群発地震活動の存在が知られている。
群発地震の発生とSSEの発生には関連があると考えられている。2007年と2011年に発生した房総沖SSEでは、そのすべりと地震活動が時空間的によく相関しており、SSEによって地震活動が誘発された可能性が示唆されている（Hirose et al, GRL, 2014）。
本研究では、2007年に発生した房総沖SSEが、それに伴う群発地震を誘発しているのかどうかについて、調べることを目的とした。
解析手法として、まず国土地理院のGNSSデータ、日々の座標値（F5解）に対してABICインバージョン解析を行うことで、すべりの時空間分布を推定した。求めたすべり分布から断層における応力変化を計算し、断層のすべりやすさを表す指標であるΔCFFを求めた。この応力変化の計算は、防災科研F-netによって公開されている地震のメカニズム解のうち、SSE発生期間中とその後1か月間に発生したMw 3.5以上の地震から推定した21個の断層について行った。
結果として、求めたΔCFFのうち、43 %（9/21個）が閾値0.01MPa以上、14 %（3/21個）が閾値以下でプラス、43 %（9/21個）がマイナスとなった。また、それぞれの断層におけるΔCFFについて空間分布をみても、その正負に規則性はみられなかった。そのため、群発地震全体がSSEによって誘発されたとするには無理があるような結果になった。そこで、ΔCFFが閾値以下になった断層について、それを閾値以上にするような間隙水圧の存在を考えることとした。
SSEのすべり領域に位置する群発地震の断層では、0.1-0.2 MPa程度の間隙水圧の増加が推定された。房総沖SSEが発生する領域では、静岩圧（350～600MPa）に比べて非常に小さい有効法線応力（10～50MPa）が推定されている（Kobayashi and Sato, GRL, 2021）ことから高い間隙水圧の存在が示唆されており、SSEのすべりによってそのすべり領域から群発地震の断層に流体が移動した可能性が考えられる。
このように、すべり領域から断層への流体の移動という間接的な要因を通じて、SSEのすべりによって群発地震が誘発されたと考えられる。

謝辞
解析にあたり、国土地理院の日々の座標値（F5解）を使用しました。応力の計算には、米国地質調査所のCoulomb 3.3を使用しました。群発地震のメカニズム解は、防災科研F-netを使用しました。本研究は、科研費（23K03541）の補助を受けました。ここに記して感謝します。