日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS05] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:奥田 花也(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、澤井 みち代(千葉大学)


17:15 〜 18:45

[SSS05-P16] プレート境界断層に沿う歪の解放に関する地質学的研究

*吉朝 開1安東 淳一1Kaushik Das1Dyuti Prakash Sarkar1 (1.広島大学)

キーワード:主境界衝上断層、層面滑り、剪断面、微細組織観察、摩擦発熱

ヒマラヤ地域には、インド亜大陸とアジア大陸が衝突した際に形成された3つの主要なプレート収束境界断層(主前縁衝上断層(MFT)・主境界衝上断層(MBT)・主中央衝上断層(MCT))が存在する。現在、インド亜大陸の収束を主に担っているのはMFTである。インド亜大陸は北上しアジア大陸下に沈み込んでおり、これを起因として地震が発生している。Billham (2019)は、沈み込みに伴って蓄積された歪は、地震によって完全には解放されておらず、いずれMw=8.6レベルの地震が1回、或いは2回発生する可能性が強いと結論づけている。この結論に対しては、実際にプレートの沈み込みに際して、プレート境界でどのような地質現象が生じているのかを明らかにすることが重要である。本研究は、プレートの沈み込み過程における脆性変形領域において、プレート間境界での地質現象の把握を目的に、地質調査および岩石の微細組織の観察を行った。
研究対象地域は、インド ヒマチャル プラデシュ州サバスー市に露出するMBTの上盤、約1 Kmの範囲である。地表に露出するMBTは、約10 Maから約0.5 Maの期間に活動したプレート収束境界断層であり、地下260℃の温度で変形した岩石が露出する(Sarkar et al., 2021)。MBTの上盤には、先カンブリア時代の砂岩層が主に分布する。砂岩単層の層厚は約5 cm-30 cmである。また泥岩層(単層の層厚約2 ㎝)との互層も確認できる。
野外調査の結果、以下のことが明らかになった。1)調査地域全域にわたり、多数の層面すべりや層理面に平行なデュープレックス構造が確認できる。また層面すべり面上には条線様のすべり線が発達する。すべり線に沿って微細な石英脈が認められる。更には層面すべりに関係してキンクバンドが顕著に発達する。2)キンクバンドから求めた主圧縮軸方向とすべり線から求めたすべり方向は、MBTの傾斜方向にほぼ平行なものが多い。1)と2)の結果は、MBTの上盤では、プレートの沈み込みに際して層面すべりが卓越することを強く示唆する。
層面すべりを受けた砂岩の微細組織観察からは以下のことが明らかとなった。3)層面すべりの多くは、砂岩単層内部に層理面に平行に発達した層厚10 mm -1 mmの複数の剪断面に沿って発達する。4)この各剪断面は小歪から大歪の状態を記録している。小歪から大歪に至る微細組織の特徴は、砂岩層を構成する基質支持の粒径50 mm –100 mmの石英が、剪断に伴ってその間隔を広げて行くことである。間隔を広げながら石英は流体と反応し細粒化が進み、反応によって白雲母が晶出する。晶出した白雲母は(100)が剪断面に平行に配列する。大歪になると、粒径が数mmの白雲母のみから構成されるようになり、顕著なリーデル剪断面が発達する。5)剪断帯の内部には、剪断方向に伸長する粒径数100 mmの波動消光を示す石英が存在し、この様な石英から石英脈が発生している。すなわち石英脈は、砂岩を構成する石英粒子が剪断による摩擦熱によって塑性変形し形成されたことが強く示唆される。この石英脈は、野外において確認できたすべり線に沿って発達する石英脈と考えられる。6)石英脈の結晶方位をEBSDによって測定した。その結果、c軸が剪断方向に垂直に集中するタイプと剪断方向に集中するタイプがあることが分かった。それぞれbasalすべりとprismすべりによる転位クリープで形成されたと考えられる。basalすべりは300~400℃で、prismすべりは550℃以上で卓越することが知られている。また石英脈中の動的再結晶を受けた石英の粒径は約5 mmである。再結晶粒径による地質差応力計を用いて差応力を見積もると190 MPaとなる。以上の温度と差応力値から石英脈形成時の歪速度を推定すると10-10~10-13 /s及び10-5~10-7 /sとなる。この値は、プレートの沈み込みに際して生じる層面すべりの歪速度と考えられる。
本研究は、プレートの沈み込みを起因として生じる歪の一部は、層面すべりの運動、そしてすべりによる摩擦発熱によって開放されている可能性が強いことを示唆する。