日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS05] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:奥田 花也(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、澤井 みち代(千葉大学)


17:15 〜 18:45

[SSS05-P19] スティック‐スリップに伴う断層周辺のダイレイタンシーおよび弾性波透過特性

*大森 涼生1上原 真一1 (1.東邦大学理学部)

キーワード:スティック‐スリップ、ダイレイタンシー、弾性波、花崗岩

研究の背景と目的
 地震は断層運動におけるスティック‐スリップである。スティック‐スリップ現象とは、静止と不安定すべりを繰り返す摩擦挙動である (Brace and Byerlee, 1966) 。地震発生前、すなわち静止状態からスリップに移行する段階に断層周辺でダイレイタンシー(体積の膨張現象)が発生したり、断層面を透過する弾性波の速度や減衰率が変化する場合があるといわれている (Scholz, 1993) 。スリップ前に断層周辺で起きるこのような現象について調べることは、地震の前兆現象の理解に役立つことが期待される。そこで本研究は、室内岩石摩擦実験を行い、スティック‐スリップに伴う断層周辺のひずみ変化と弾性波の透過特性の変化を明らかにすることを試みた。

研究の方法
 試料には、直径40 mm、長さ80 mmの円柱形に整形した庵治花崗岩を使用した。試料を軸方向から30 °で斜めに切断し、切断面はカーボランダム#3000 (平均粒径4 μm)で研磨した。試料はイオン交換水で飽和させ、封圧下で軸方向に一定の速度で軸載荷することで摩擦実験を行った。封圧は100 MPa、間隙水圧は1 MPa、軸変位速度は0.03 mm/minとした。プレカット面上でスティック‐スリップを発生させ、プレカット面近傍のひずみと、面と直交する方向の透過弾性波の測定を行った。ひずみの測定は、断層面から1 mmの位置に、長さ1 mmの二軸ひずみゲージ(軸方向と周方向)2枚を断層面を挟むように試料に貼り付けて行い、その結果からひずみの変化について調べた。弾性波測定には一対の圧電素子(固有振動数1.0 MHz)を用い、スティック‐スリップに伴い速度や振幅がどのように変化するか調べた。入力信号は電圧100 V、1 kHzの矩形波で、1 secの間隔で測定した。

結果と考察
 スリップが発生しない期間は、軸変位に伴い軸ひずみは減少(収縮)し、周ひずみは増加(伸長)した。片側(断層面上側)の岩石のひずみゲージでは一部の例外を除いて、スリップ直前で周ひずみは増加率が上昇し、軸ひずみは減少から増加に転じた。これは断層面近傍でのダイレイタンシーを示唆している。断層面下側の岩石のひずみゲージは一部の例外を除いてスリップ直前で周ひずみは増加率が上昇し、軸ひずみの減少率が増加した。軸ひずみの変化は断層面上側と下側で異なっていた。透過弾性波については、スリップ面の状態に大きな変化が生じると予想されるスリップ直前と直後の波形においても、明らかな変化を捉えることはできなかった。Shreedharan et al. (2021) はガウジを挟んだせん断試験で同様の実験を実施したが、スリップ時の短期的な変化を除けば、速度と振幅の変化は、それぞれ最大で0.1 %、0.32%程度と微小であることから、単純に波形を比較するだけでは認識できていない可能性が高い。今後は透過弾性波波形の相互相関解析を行うことで、スリップが発生しない期間に微小な変化がないか検討する。

参考文献
Brace, W.F., Byerlee, J.D. (1966) Stick-Slip as a Mechanism for Earthquakes, Science 26, 153 (3739), 990-992.
Scholz, C.H. (1993) The Mechanics of Architectures and Faulting, Cambridge University Press.
Shreedharan, S., Bolton, D.C., Rivière, J., Marone, C. (2021) Competition between preslip and deviatoric stress  modulates precursors for laboratory earthquakes, Earth and Planetary Science Letters, 553 (2021) 116623.