日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震波伝播:理論と応用

2024年5月28日(火) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、竹尾 明子(東京大学地震研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)、岡本 京祐(産業技術総合研究所)、座長:岡本 京祐(産業技術総合研究所)、栗原 亮(神奈川県温泉地学研究所)

11:15 〜 11:30

[SSS07-07] 高周波数帯を含むレシーバ関数による南海地方深部スロー地震域周辺における不均質構造推定の試み

*高山 朗文1佐脇 泰典2、Yihuan Ruan1伊藤 喜宏3前田 拓人4澁谷 拓郎3 (1.京都大学大学院理学研究科 地球惑星科学専攻 防災研究所、2.国立研究開発法人 産業技術総合研究所、3.京都大学防災研究所、4.弘前大学大学院理工学研究科)

キーワード:南海沈み込み帯、スロー地震、レシーバ関数、波動伝播モデリング

南海沈み込み帯における深部スロー地震発生場における不均質構造について,モデリング波形および観測波形の両面からその検出性を検討した.沈み込むスラブ周辺の地震学的不均質性 (沈み込む海山など) は,スロー地震の発生環境を反映する.先行研究では,浅部スロー地震発生場において沈みこむ海山が浅部スロー地震の発生を制御する可能性が指摘されている (e.g., Sun et al., 2020).一方,深部スロー地震発生場では,P 波速度と S 波速度の比に着目した研究が存在する (e.g., Shelly et al., 2006; Nakajiama and Hasegawa, 2016).しかし,いずれの研究も空間解像度が高くなく,地震学的不均質構造が深部スロー地震発生にどのように影響するかについては議論が続いている.したがって,スラブ表面周辺の詳細な構造推定は,深部スロー地震発生の物理を理解する上で不可欠である.本研究では,RAYSUM (Frederiksen and Bostock, 2000) と OpenSWPC (Maeda et al., 2017) の波動伝播モデリングから,薄い地震学的不均質構造における検出可能性を検討した.大陸プレートと傾斜した海洋プレートの間に単純な厚さ 1 km の低速度層を挿入した構造モデルを採用し,レシーバ関数 (RF) (Langston, 1979; Owens et al., 1984) を計算した.
その結果,4 秒付近にスラブ表面で変換した Ps 変換波相を検出した.それ以降の波相には,大陸プレート内の多重反射も含まれていた.RF の到達時間と振幅は波線の back azimuth によって変化し,これはスラブの形状と一致した.しかし,RAYSUM と OpenSWPC による 0.5 Hz までの低周波帯域 RF では,厚さ 1 km の低速度層は検出できなかった.これは,RF における鉛直方向の構造の分解能が S 波波長に依存するためである (Levin et al., 2016).そこで,スラブ表面周辺の局所的な不均質構造を検出できる可能性がある,2 Hz までの高周波数帯域を使用した RF 計算を行った.
その結果,RAYSUM では薄い地震波不均質構造を検出できたが,OpenSWPC では完全には反映されなかった.OpenSWPC による波動場計算は,計算領域の幅が不十分な場合,領域境界からの反射を含む可能性がある (Maeda et al., 2017).計算メモリの問題を解決するため,東京大学地震研究所地震火山情報センターのスーパーコンピュータ上でも OpenSWPC の高周波帯域波動伝播計算を行った.
低周波のみ使用した RF と高周波まで使用した RF の両方で,周波数領域での逆畳み込み積分計算の不安定が発生した.これは,一般に周波数領域逆畳み込み積分の分母における,鉛直成分パワースペクトルのスペクトルホールに起因する.より安定した RF 計算のためには,周波数領域での分割を避ける必要がある.周波数領域逆畳み込み積分計算の不安定を解決するため,時間領域 RF も計算した (e.g., Ligorría and Ammon, 1999; Ruan et al., 2023).また,モデリング波形による RF 計算結果を踏まえ,南海沈み込み帯の観測波形に対してマルチバンド RF 解析 (e.g., Sawaki et al., 2021) を行った.観測波形とモデリング波形の RF を比較し,深部スロー地震発生場周辺の薄い地震学的不均質構造の存在と,その発生要因について議論する.