[S-SS07] 地震波伝播:理論と応用

[SSS07-P04] 浅部超低周波地震の相関法による震央決定

*須田 直樹¹ (1.広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)

キーワード：スロー地震、超低周波地震、日向灘、相関法、サイクルスキッピング

浅部超低周波地震(SVLFE)は遠方の観測点でも信号が明瞭に捉えられることから，浅部スロー地震のすべり域拡大のリアルタイムモニタリングに適している。これまでF-netやDONETの広帯域地震計記録の解析による南海トラフ域のSVLFEの震央決定には，アレイ解析 (Asano et al. 2008)とグリッドサーチ (e.g. Asano et al. 2015)が主に用いられてきた。またOBS記録の解析にはエンベロープ相関法も用いられた(Tonegawa et al. 2020)。しかしSVLFEの震央決定にバンドパス波形に対する相関法が用いられた例はこれまで無いようである。本研究ではF-netのバンドパス波形に相関法を適用することでSVLFEの震央を十分な精度で決定できることを確認したので報告する。

一般に相関法では２つの観測点の波形から求めた相互相関係数の最大値を与える時間差を走時差データとして扱う。しかし狭帯域の波形では真の走時差に対して卓越周期の整数倍のずれが生じてしまうcycle skippingがしばしば起こる。本研究では相互相関係数の極大値を与える複数の時間差を扱い，相互相関係数以外にも条件を設けることで，この問題を解決した。

日向灘域で発生したSVLFE活動のうち，足摺岬南方まで東側に活動域が広がった２０１０年1-3月，２０１５年5-7月，２０２３年4-5月の３つの大規模活動について震央を決定した。使用データはF-netの27観測点からの広帯域地震計記録の上下動成分で，20-50秒のバンドパスフィルターをかけてサンプリング間隔を1秒とした。解析は，日向灘域のある参照点に対する理論走時でreduceした波形について，長さ300秒の解析区間を150秒ずつずらして連続的におこなった。その際，波の見かけ速度は3.8 km/secとした。求められた震央からブートストラップ法による誤差が7 km以下のものを結果として採用した。

得られた震央分布には3つの活動全てで4つの明瞭な震央クラスターが見られ，それらは浅部微動と同様に地磁気異常から推定される沈み込む海山を縁取るように配置していた(Arai et al. 2023)。今回の結果を先行研究と比較すると，テンプレート波形を用いたグリッドサーチの結果と整合的であり，より詳細な震央分布が得られていた。このことは，SVLFEについては震央決定に関する限り三次元地震波速度構造を考慮しなくても十分な精度が得られることを示している。

謝辞：本研究ではF-netの記録を利用しました。防災科学技術研究所の関係各位に感謝します。