日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震波伝播:理論と応用

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、竹尾 明子(東京大学地震研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)、岡本 京祐(産業技術総合研究所)

17:15 〜 18:45

[SSS07-P09] 箱根火山周辺の地震計で観測されるノイズの特徴

*栗原 亮1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:地震ノイズ、火山性微動

地震計では地震が発生していない時刻においては、周辺の振動、つまり背景の「ノイズ」を記録している。この中には、雨や風などといった気象ノイズや、自動車の走行や工場の稼働などといった人工的なノイズなどが含まれる。近年では、このノイズの活用が進んでおり、新型コロナウイルスの流行に伴う社会活動の変化を捉えた事例(Lecocq et al., 2020; Yabe et al. 2020)や大雨に伴う河川の流量を捉えた事例(Shakti and Sawazaki 2021)が報告されている。一方で、ノイズと思われていた事例の中に地震学的に重要な現象が発見された事例も存在する。例えば、現代ではスロー地震の一種としてよく知られるプレート沈み込み帯で発生する微動は一見するとノイズのような波形の中から発見された(Obara, 2002)。また、霧島山では2018年の噴火を起こす前に、夜間のノイズの振動が徐々に増大していったことが最近明らかとなった(Ichihara, Ohminato, et al., 2023)。この振動は火山活動の推移と対応していることなどから、マグマからの脱ガス現象に伴う微動ではないかと考えられている(Ichihara, Kobayashi, et al., 2023)。本研究では、箱根地域およびその北の丹沢山地内の4観測点でどのようなノイズが観測されているかを調べ、背景に重要な火山活動やテクトニックな動きを示す活動があるかについても調査した。
 本研究の解析は、Ichihara, Ohminato, et al. (2023)を参考に、まず地震計で記録された波形に4-16Hzのバンドパスフィルターをかけ、その波形の1分毎のRMS振幅を計算した。次に地震等の短期的な振幅変化を除くため、1日を0:00-5:59, 6:00-11:59, 12:00-17:59, 18:00-23:59の6時間毎の時間窓へ4分割し、各時間窓内360個の1分毎のRMS値の中央値をその窓内の代表値としてノイズの振幅を得た。
 その結果、大涌谷噴気地帯の周辺に設置されている大涌谷観測点・大涌谷地蔵尊観測点では、これらの観測点が地上設置型であるため、日中である6:00-11:59, 12:00-17:59には周囲の観光施設の稼働、観光客の移動による交通などの影響を受けノイズの振幅が夜間である0:00-5:59, 18:00-23:59と比べて10倍程度大きくなることがわかった。しかし、2015年や2019年の噴火警戒レベル上昇時および2020年の新型コロナウイルス流行時は観光施設が閉鎖されたため、ノイズ振幅が夜間と同程度に低かった。そして、2015年6月頃から2016年5月頃および2022年7月頃から2023年7月頃の2回は夜間のノイズ振幅が1年程度の長期間に渡って高い状態が継続していることがわかった。この夜間ノイズは発生時期や継続期間の長さから何らかの火山現象である可能性が高いと考えている。一方で、箱根地区の駒ヶ岳観測点では、ボアホールの観測点であることや周囲が一般に立ち入り禁止であることなどから、ノイズレベルは低くなっていた。また、大涌谷のような夜間ノイズ振幅の変化は見られなかった。
 また、箱根の北に位置する丹沢山地の大又沢観測点においては、人家のない山中に設置しているため日中の人工ノイズはほとんど観測されていない。一方で、この観測点は川沿いに設置されているため、付近の気象庁アメダス丹沢湖で1日100mm以上の大雨が観測された際には、ノイズレベルが10-50倍に跳ね上がり、2週間程度をかけてノイズレベルが徐々に元の状況に戻ることが観測された。これはこの川での流量と対応しノイズが上昇していると考えられ、雨量とノイズ振幅は対応関係にあることから、ノイズ振幅から河川流量を推定できる可能性がある。