日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震活動とその物理

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:00 コンベンションホール (CH-B) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:千葉 慶太(公益財団法人 地震予知総合研究振興会)、山下 裕亮(京都大学防災研究所地震災害研究センター宮崎観測所)、座長:楠城 一嘉(静岡県立大学)、勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

10:45 〜 11:00

[SSS08-05] 遠地地震による日本列島における地震活動の変化にもとづく動的誘発の定量的研究

*松尾 凌1宮澤 理稔2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学防災研究所)

キーワード:動的誘発、日本列島、地震活動の変化、誘発強度

地震の動的誘発(遠地誘発)とは、比較的大規模な地震による表面波などが応力擾乱をもたらしながら伝播することによって、遠隔地で別の地震を誘発する自然現象のことであり、そのメカニズムは十分に解明されていない。地震発生時に断層の永久変位によって生じる静的応力変化による余震の誘発とは異なり、地震波伝播に伴う動的な応力変化量は静的応力変化量よりも距離減衰が小さいためため、遠地での地震の誘発に寄与していると考えられる。近年、世界規模で地震観測網が密になったことにより動的誘発に関する事例が多く報告されているが、動的誘発に伴う地震活動の変化に関する定量的な研究は十分に進んでいない。
 本研究では、日本列島の地震活動の度合いを数値化して誘発のされやすさを求めることで、動的誘発地震の特徴を定量的に調べる。このために、誘発のされやすさを示す指標として、van der Elst & Brodsky (2010)の提唱した誘発強度nを用いる。n値は、誘発の原因となる遠地地震の表面波到達の前後の、地震活動度λの変化比で定義され、n値が0よりも大きいと表面波通過後に地震活動が活発化したと表現される。通常λを求めるには充分な観測期間が必要だが、高頻度に発生する遠地地震について調べるには、どの遠地地震の影響を受けたかを分離できず、長い期間を取ったλを求めることは不適当である。そのため、表面波が到達する1つ前のイベントから誘発する波が到達するまでの時間t1と、誘発する波が到達してから最初にイベントが起こるまでの時間t2から算出される、比R=t2/(t1+t2)のアンサンブル平均を介してn値を求める (van der Elst &Brodsky,2010)。地震活動の解析は、1997年から2010年までと、2012年から2021年までに分けて行う。遠地地震にはANSSの地震カタログ記載のM6以上で深さ60km以浅の地震を選び、動的誘発を調べる日本列島の地震活動には気象庁一元化処理震源(深さ30km以浅かつMcを考慮)を用いた。日本列島を0.1°×0.1°のグリッドに区切り、グリッドごとのn値を調べた。また、Peak Ground Velocity(PGV)とn値との対応を調べることにより、揺れの大きさと地震の誘発のされやすさとの関係を調べた。
 大きなn値が観測された領域は、大規模な地震や噴火活動、地熱地帯であるという地域性が存在することを確認した。また、PGVが大きいほどn値が大きくなる傾向がみられた一方で、日本列島は南カリフォルニアに比べて動的誘発が発生しにくい場所であることが分かった。