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[SSS08-12] 2016年熊本地震の前駆的地震活動における地震波放射エネルギーの系統的変化

キーワード:震源スペクトル、規格化エネルギー、地震波放射エネルギー、前駆的地震活動
大地震に先立つ前駆的地震活動が、本震の震源核形成過程やそれとは独立した要因による前震すべりなどによって引き起こされる可能性が指摘されている。後者に関連する仮説として、流体による断層強度低下や、それが誘発する非地震性すべりによって前震活動や本震が引き起こされるものがある (e.g., Sibson, 1992; Kato et al., 2012; Matsumoto et al., 2022)。しかしながら、その発生機構について、観測データに基づいた理解は十分ではない。本震前後に発生した地震の特徴を系統的に調べ、比較することが有用であると考えられる。
2016年熊本地震では、M6.5前震がM7.3本震の約28時間前に先立って発生した。M6.5 前震とM7.3 本震の間の期間において多数の地震が発生しており、前駆的地震活動の特性を調べるのに適していると考えられる。2008年1月以降に発生した小地震 (1.5<Mjma<2.5 ) 15756個の震源スペクトルと規格化エネルギーを推定し、それらの特徴を系統的に調べた。
初めに、観測スペクトルから地震波減衰 Q-1 とサイト特性の影響を除去することにより震源スペクトルを決定した。サイト特性と地震波減衰 Q-1 については、地震波の後続波を用いたコーダ規格化法 (Aki and Chouet, 1975; Aki, 1980) に基づいて評価した (Takahashi et al., 2005; Yoshida et al., 2017)。次に、決定した震源スペクトルを使用して放射エネルギーと地震モーメントを計算して規格化エネルギーを推定した。
この結果、9381個の地震について、震源スペクトルと規格化エネルギー eR を推定することができた。得られた eR の範囲は 10-5 から 10-4 (log10eR の平均値と標準偏差はそれぞれ -4.93、0.28) であり、先行研究 (e.g., Abercrombie et al., 1995; Kanamori and Brodsky, 2004; Yoshida and Kanamori, 2023) で推定された地殻内地震のそれと同じ範囲であった。
推定した eR の時空間的な特徴を調べた。その結果、M6.5前震とM7.3本震の間の期間において、eR が系統的に小さくなる傾向が得られた。この傾向の要因を一意に解釈することは難しいが、規格化エネルギーは応力降下量や破壊伝播速度と相関すると考えられているので (e.g., Kanamori and Brodsky, 2004)、M6.5前震とM7.3本震の間の期間に発生した地震の応力降下量や破壊伝播速度が小さかったことを反映している可能性がある。この要因の一つとして、M6.5前震発生からM7.3本震発生までの期間に地殻内流体が断層面に浸入したことなどにより、断層面の有効法線応力が低下していた可能性がある。
震源域周辺の b 値を推定したところ、時空間的に特徴のある変化が見られため、eR と比較して関係性を調べた。各地震まわりの b 値については、カットオフマグニチュード (Mc) を2.0で固定し、各地震の震源から 5 km 以内で発生した地震に対して最尤法を適用することにより推定した (Aki, 1965)。その結果、b 値と eR が逆相関する傾向が見られた。 b 値は岩石実験の結果などから差応力や有効法線応力と逆相関する可能性が指摘されている (e.g., Scholz, 1968)。推定した eR が、断層面における有効法線応力を反映している可能性がある。
さらに、推定した Mw と eR 、気象庁マグニチュード Mjma の関係を調べた。 その結果、先行研究 (e.g., Edwards et al., 2010) と同様に、小地震の Mw が Mjma よりも系統的に大きくなる傾向が見られた。特に、eR が小さい地震においてその乖離が大きかった。eR が標準値 (eR~10-5) よりも小さい地震において、Mjma と Mw の乖離が大きくなることを示唆している可能性がある。この結果は、Mw を経験的な関係に基づいて Mjma から推定するのではなく直接推定することが、小地震 (M<3~4 ) の震源パラメータを正確に推定するため必要があることを示唆している。
2016年熊本地震では、M6.5前震がM7.3本震の約28時間前に先立って発生した。M6.5 前震とM7.3 本震の間の期間において多数の地震が発生しており、前駆的地震活動の特性を調べるのに適していると考えられる。2008年1月以降に発生した小地震 (1.5<Mjma<2.5 ) 15756個の震源スペクトルと規格化エネルギーを推定し、それらの特徴を系統的に調べた。
初めに、観測スペクトルから地震波減衰 Q-1 とサイト特性の影響を除去することにより震源スペクトルを決定した。サイト特性と地震波減衰 Q-1 については、地震波の後続波を用いたコーダ規格化法 (Aki and Chouet, 1975; Aki, 1980) に基づいて評価した (Takahashi et al., 2005; Yoshida et al., 2017)。次に、決定した震源スペクトルを使用して放射エネルギーと地震モーメントを計算して規格化エネルギーを推定した。
この結果、9381個の地震について、震源スペクトルと規格化エネルギー eR を推定することができた。得られた eR の範囲は 10-5 から 10-4 (log10eR の平均値と標準偏差はそれぞれ -4.93、0.28) であり、先行研究 (e.g., Abercrombie et al., 1995; Kanamori and Brodsky, 2004; Yoshida and Kanamori, 2023) で推定された地殻内地震のそれと同じ範囲であった。
推定した eR の時空間的な特徴を調べた。その結果、M6.5前震とM7.3本震の間の期間において、eR が系統的に小さくなる傾向が得られた。この傾向の要因を一意に解釈することは難しいが、規格化エネルギーは応力降下量や破壊伝播速度と相関すると考えられているので (e.g., Kanamori and Brodsky, 2004)、M6.5前震とM7.3本震の間の期間に発生した地震の応力降下量や破壊伝播速度が小さかったことを反映している可能性がある。この要因の一つとして、M6.5前震発生からM7.3本震発生までの期間に地殻内流体が断層面に浸入したことなどにより、断層面の有効法線応力が低下していた可能性がある。
震源域周辺の b 値を推定したところ、時空間的に特徴のある変化が見られため、eR と比較して関係性を調べた。各地震まわりの b 値については、カットオフマグニチュード (Mc) を2.0で固定し、各地震の震源から 5 km 以内で発生した地震に対して最尤法を適用することにより推定した (Aki, 1965)。その結果、b 値と eR が逆相関する傾向が見られた。 b 値は岩石実験の結果などから差応力や有効法線応力と逆相関する可能性が指摘されている (e.g., Scholz, 1968)。推定した eR が、断層面における有効法線応力を反映している可能性がある。
さらに、推定した Mw と eR 、気象庁マグニチュード Mjma の関係を調べた。 その結果、先行研究 (e.g., Edwards et al., 2010) と同様に、小地震の Mw が Mjma よりも系統的に大きくなる傾向が見られた。特に、eR が小さい地震においてその乖離が大きかった。eR が標準値 (eR~10-5) よりも小さい地震において、Mjma と Mw の乖離が大きくなることを示唆している可能性がある。この結果は、Mw を経験的な関係に基づいて Mjma から推定するのではなく直接推定することが、小地震 (M<3~4 ) の震源パラメータを正確に推定するため必要があることを示唆している。