17:15 〜 18:45
[SSS08-P01] 日本海東縁部を対象とした確率論的地震ハザード解析における領域震源の設定に関する諸検討
キーワード:確率論的地震ハザード解析、日本海東縁部、余震除去、領域震源
はじめに
確率論的地震ハザード解析では、地震規模に応じて震源断層を特定した震源(以下、特定震源)と震源断層を特定しない震源(以下、領域震源)を設定し地震動の強さを評価する。
日本海東縁部のような海域においては、主として音波探査による反射断面を用いて、特定震源となる活断層が抽出され、断層モデルが設定されているが(日本海における大規模地震に関する調査検討会, 2014; 海域における断層情報総合評価プロジェクト, 2013-2019; 日本海地震・津波調査プロジェクト, 2021)、このようなデータには,調査方法・測線設定まで遡る不確実性がふくまれており、地震本部 (2002)による日本海南西部の海域活断層の長期評価においても、このような不確実性への留意が記述されている。この不確実性の一つとして、上記の方法では特定震源として認定ができていない断層や「短い断層」を震源断層としてどのように評価するかという大きな問題がある。このような断層による地震ハザードを過小評価しないための方法として、領域震源により不確実性をカバーすることが行われている。領域震源は、地震観測データからG-R則を用いて設定されることが多いが、観測データから余震を的確に除去する方法、多数の震源を効率的に設定し地震ハザードを評価するための震源の表現方法が課題となる。本検討ではこれらの課題に対して、複数の余震除去手法の比較や震源のメカニズムに関する基礎的検討を行い、地震ハザードに与える影響について評価を行った。
データ
発生頻度の設定には気象庁が公開している地震カタログの内、1919年~2019年のデータを利用した。また、下記検討2の(B)ではF-netのメカニズムの情報も併せて利用した。
検討内容・結果
本検討では、下記の2つの項目について影響を調べた。
・検討1)余震除去手法が地震ハザードに与える影響
地震本部が公表している全国地震動予測地図では、建設省(1983)で提案された窓関数を用いて余震を除去する方法に準じて地震カタログから余震を取り除いている(例えば、地震本部, 2009)。一方で、余震除去手法には、Gardner and Knopoff (1974)やMusson (1999)など他にも複数の余震除去手法が提案されている。そこで、本研究では各余震除去手法による余震の除去の傾向の違いや地震ハザードに与える影響について調査した。その結果、Gardner and Knopoff (1974)の手法では地震本部(2009)に比べて除去数が多く、Musson (1999)の手法では少ない結果となり、PGAのハザードカーブにおいても手法による差異が確認された。そのため、余震除去手法を認識論的不確実性としてロジックツリーに含めることが望ましいと考える。
・検討2)点震源と面震源によるハザードカーブの差異
地震本部では防災科研(2003)の検討結果を踏まえて0.1度×0.1度の間隔で発生頻度を設定した点震源の集合を領域震源として採用している。一方で、最大マグニチュードが大きい場合には面震源を点震源としてみなせない可能性がある。そこで、本研究では(A)面震源と点震源、(B)設定する面震源のメカニズム、(C)面震源を設定する際のスケール則の3つの観点で感度分析を実施した。(B)では面震源のメカニズムをstrike方向、dip方向、深さ方向に一様に分布する場合と、観測されたメカニズムから重みづけ確率で設定した場合の地震ハザードの差異を確認した。また、(C)ではスケール則として宇津・関(1955)を用いた場合とWells and Coppersmith (1994)を用いた場合の差異を確認した。
検討の結果(A)では、点震源に対して面震源は地震動振幅が大きくなるにつれてハザードが大きくなる結果となった。(B)と(C)は今回対象とした地点では明瞭な差異は確認されなかった。ただし、今回の検討では領域震源を0.1度の間隔で離散化して実施しているが、面震源では地震規模が大きくなると0.1度の領域を超えて断層を生成してしまうという問題がある。また、面震源を設定するためにはメカニズムも併せて設定する必要があるため、点震源を仮定した計算と比較すると、計算コストはメカニズムの分岐や面震源の離散間隔に応じて増加することになる。今後、領域震源の離散間隔と地震ハザードの関係性についても調査を進めて、面震源に等価な点震源を設定できるか等について検討をしたい。
謝辞
本検討は、規制庁の研究委託業務” 令和5年度原子力施設等防災対策等委託費(海域を対象とした確率論的地震ハザード評価に係る予備調査)事業”の一環として実施しました。研究内容については防災科学技術研究所の森川様にご指導をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
また、気象庁の公開している地震カタログおよび防災科学技術研究所のF-netの震源情報を利用させていただきました。ご尽力されている関係者の皆様に感謝申し上げます。
確率論的地震ハザード解析では、地震規模に応じて震源断層を特定した震源(以下、特定震源)と震源断層を特定しない震源(以下、領域震源)を設定し地震動の強さを評価する。
日本海東縁部のような海域においては、主として音波探査による反射断面を用いて、特定震源となる活断層が抽出され、断層モデルが設定されているが(日本海における大規模地震に関する調査検討会, 2014; 海域における断層情報総合評価プロジェクト, 2013-2019; 日本海地震・津波調査プロジェクト, 2021)、このようなデータには,調査方法・測線設定まで遡る不確実性がふくまれており、地震本部 (2002)による日本海南西部の海域活断層の長期評価においても、このような不確実性への留意が記述されている。この不確実性の一つとして、上記の方法では特定震源として認定ができていない断層や「短い断層」を震源断層としてどのように評価するかという大きな問題がある。このような断層による地震ハザードを過小評価しないための方法として、領域震源により不確実性をカバーすることが行われている。領域震源は、地震観測データからG-R則を用いて設定されることが多いが、観測データから余震を的確に除去する方法、多数の震源を効率的に設定し地震ハザードを評価するための震源の表現方法が課題となる。本検討ではこれらの課題に対して、複数の余震除去手法の比較や震源のメカニズムに関する基礎的検討を行い、地震ハザードに与える影響について評価を行った。
データ
発生頻度の設定には気象庁が公開している地震カタログの内、1919年~2019年のデータを利用した。また、下記検討2の(B)ではF-netのメカニズムの情報も併せて利用した。
検討内容・結果
本検討では、下記の2つの項目について影響を調べた。
・検討1)余震除去手法が地震ハザードに与える影響
地震本部が公表している全国地震動予測地図では、建設省(1983)で提案された窓関数を用いて余震を除去する方法に準じて地震カタログから余震を取り除いている(例えば、地震本部, 2009)。一方で、余震除去手法には、Gardner and Knopoff (1974)やMusson (1999)など他にも複数の余震除去手法が提案されている。そこで、本研究では各余震除去手法による余震の除去の傾向の違いや地震ハザードに与える影響について調査した。その結果、Gardner and Knopoff (1974)の手法では地震本部(2009)に比べて除去数が多く、Musson (1999)の手法では少ない結果となり、PGAのハザードカーブにおいても手法による差異が確認された。そのため、余震除去手法を認識論的不確実性としてロジックツリーに含めることが望ましいと考える。
・検討2)点震源と面震源によるハザードカーブの差異
地震本部では防災科研(2003)の検討結果を踏まえて0.1度×0.1度の間隔で発生頻度を設定した点震源の集合を領域震源として採用している。一方で、最大マグニチュードが大きい場合には面震源を点震源としてみなせない可能性がある。そこで、本研究では(A)面震源と点震源、(B)設定する面震源のメカニズム、(C)面震源を設定する際のスケール則の3つの観点で感度分析を実施した。(B)では面震源のメカニズムをstrike方向、dip方向、深さ方向に一様に分布する場合と、観測されたメカニズムから重みづけ確率で設定した場合の地震ハザードの差異を確認した。また、(C)ではスケール則として宇津・関(1955)を用いた場合とWells and Coppersmith (1994)を用いた場合の差異を確認した。
検討の結果(A)では、点震源に対して面震源は地震動振幅が大きくなるにつれてハザードが大きくなる結果となった。(B)と(C)は今回対象とした地点では明瞭な差異は確認されなかった。ただし、今回の検討では領域震源を0.1度の間隔で離散化して実施しているが、面震源では地震規模が大きくなると0.1度の領域を超えて断層を生成してしまうという問題がある。また、面震源を設定するためにはメカニズムも併せて設定する必要があるため、点震源を仮定した計算と比較すると、計算コストはメカニズムの分岐や面震源の離散間隔に応じて増加することになる。今後、領域震源の離散間隔と地震ハザードの関係性についても調査を進めて、面震源に等価な点震源を設定できるか等について検討をしたい。
謝辞
本検討は、規制庁の研究委託業務” 令和5年度原子力施設等防災対策等委託費(海域を対象とした確率論的地震ハザード評価に係る予備調査)事業”の一環として実施しました。研究内容については防災科学技術研究所の森川様にご指導をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
また、気象庁の公開している地震カタログおよび防災科学技術研究所のF-netの震源情報を利用させていただきました。ご尽力されている関係者の皆様に感謝申し上げます。